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謂わないで。(泉)


君になんて出会いたくなかったよ。


でも、そんなことは不可能に近かった。何故なら俺たちは双子だったからだ。出会わないなんてことはありえなかったのだった。出会うという選択肢は避けては通れなかったのだ。二卵性なのに、あまりにも似すぎているその顔を見るだけで何故だか腹立たしくなった。嫌気がしたのだ。だから、出会いたくなどなかった、と思ってしまったのだ。





君になんて出会わなければよかったのに、と、何度思っただろうか。


そう口にすれば君は気にする様子もなく、いつまでもそう思っていればいいわ、と謂った。少しも気にする様子を見えない君に、腹が立った。これっぽっちも、俺のことなんて考えていないように見えたから、だから腹立たしく思ったんだ。少しでも俺のことえを気にしてくれよ、と俺は思っていたんだ。








***







「名前になんて出会わなければよかった。出会いたくなんてなかった」


いつものように、いつもの言葉を口にする。いつものように、名前は図書室で借りた哲学書を読んでいるのを止め、目線をこちらに向けた。いつからかそれが、決まった動作、決まった行動になっていた。多分、小学校高学年くらいから毎日のようにやってきたと思う。そのときから名前はいつだって本を読んでいて、俺のことなんてお構いなしだったから。


「私と孝介の出会いなんて単なる偶然にしか過ぎないのよ。出会いたくないと願っていても出会ってしまうものでしょう」


けれども今日はいつもと違っていた。名前の返答が、いつもと違っていたのだった。いつもなら、いつまでもそう思っていればいいよ、と言って本に目線を戻し、本を読むのを再開しているのだった。それが、いつもどおりだった。だけど、今日は違っていた。


「孝介との出会いなんて偶然。ほんの一瞬でも違えば、私か孝介は存在しなかったかもしれない」


そう謂って名前は本にしおりを挟んで小さくパタン、と音を立てて本を閉じた。その動作のひとつひとつが綺麗だった。男、女で違いはあれど、ほとんど同じような姿、顔をした俺がやっても、綺麗には見えないだろう、と思った。


「私と孝介の出会いなんて、単なる偶然。もう出会ってしまったんだから、仕方のないことなんだから、そんなこともう口にしないで。孝介はそう思ってるかもしれないけれど、私は一度たりともそんなことを思ったことは無いよ。毎日毎日、孝介の口からそんな言葉を聞くのは、聞いてて悲しくなる。だから、もうやめて、謂わないで」


滅多に涙を見せない名前が涙を流した。それを見て、とても愚かなことを謂っていたことに気が付いた。ごめん、ほんとは出会いたくないなんて思ってなかったんだ。その、反対のことを思ってたんだ。名前が好きだ、なんて感情に気付かないようにするために、そんなことを謂ってきてたんだ。ごめん、名前。 俺、ずっと嘘吐いてた。最初は名前が本を読んでばっかでつまんなくて、構ってもらいたくて、そんなこと言ってた。名前に少しでも構ってもらいたくて、そんなことしてたんだ。ほんとはそんなこと、思ってなんかなかった。ごめん、名前。


わないで。
もう二度とそれを口にしないと誓ってよ。


ほんとは出会えて良かったって思ってる。今更になって、好きだ、と言ったら怒る?


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最初の考えから大分反れたものです。
最初は、好き、という単語は出てこないお話でした。


PCの双子企画より。


(2007/10/18)


あきゅろす。
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