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望(アリス)*



チェシャ猫
私の、猫

私が創った 私の猫
私だけの、


「チェシャ猫」


囁いて抱きしめれば、猫が笑った気がした。
ううん、きっと笑ったわ。
だって私が望んだんだもの。


「ね? 猫」


同意を求めてみれば、やっぱり猫は笑っていた。


月明かりに照らされた屋上はひどく静かで
やっぱり病院はすきになれそうにないなと一人ごちる。

いつだったか自身で刺した腹はまだ微かに痛むけれど
この痛みだけが、生きている証拠なのだと思うと愛しくさえ思えた。


「病室なんて檻に監禁されてる方がよっぽど苦痛よね」


同意を求めてチェシャ猫の首をさらにきつく抱きしめると、
自分の体がひどく冷えていることに気付く。


いつの間か空も白んでいた。
消灯は九時だったというのに、そろそろ朝になるようだ。
寒さに震える体に、知らず知らず笑みが漏れる。


(証拠、ここにもあった…)


笑う度に腹が痛む。
滲む血は、ああ、いつか見た水溜まりのいろ。


滲んだ赤は次第に衣服を浸食し、終いには溢れてコンクリートを叩いた。
チェシャ猫のローブにも瞬く間に染みていく。


「あら、猫。きれいね、」

すごく素敵よ、あかいあなたって。


どろり、チェシャ猫の首から流れ出ていた赤と腹から出た赤が混じる。


「首を切られても猫は死なないのにね」


あなたが死んだのは、私が望んだからでしょう。

なんて忠義な、なんていじらしい、可愛い可愛い私の猫!


「あいしてるわ、私の、私だけの、」







猫、と少女は独り呟く。
誰も居ない、病院の屋上で。

飛び降りを防止するためか、
少女の小柄な身長の二、三倍はあるフェンスの目の前に横たわる少女。


少女は両腕で灰色のフードを被った男の生首を
まるで宝物のように胸に抱き、

虚ろな目には生首から垂れる血と自らの腹部から滲み出た血しか映っていない。


猫、それが最期の少女の言葉だった。





んだのは
幸せなせかい

(恋情の証拠は、貴方を殺すこと)


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