「夢を、見た気がしたの」
そう呟いた少女は、静寂に包まれた六畳程度の部屋にいた。
正確には、ベッドに横たわっていた、という表現が正しいだろう。
ベッドの横、丁度少女の腹部くらいの位置にいる体格のいい中年男性が、心配そうに少女の顔を覗きこむ。
呟きの続きを催促されたように感じた少女は、重い唇を動かした。
「長い夢よ。猫が…灰色の猫が、笑うの。…大きな…大きな口を、…そうね、まるで三日月みたいに歪めて」
濁った三日月が、焦点の合わない虚ろな瞳に浮かんでは消えていく。
「ウサギを…」
ウサギ、を?
「…あれ」
思い出せない。
少女が口を開けたまま固まると、男性は安堵したように笑った。
夢なんてそんなものだ、と少女の頭を撫でる。
そうかしら、と納得とも不満ともつかない声を少女が漏らすと、夢見が悪いのは疲れからきているものであり、それを治すためにもゆっくり療養すべきだと言った。
少女は素直に頷きをひとつ帰して目を閉じる。
遠くで、誰かが別れを告げた気がした。
永眠
さよなら
さようなら。
かわいそうなかみさま
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