「ぼうしやさん、ぼうしやさん!」
いつだってアリスは、俺を呼んだ。
ふわふわした栗色の髪を靡かせて、おぼつかない足取りで走ってきては
「ぼうしやさん、あのね、しろうさぎがね」
いつだって他のやつのことを話して、嬉しそうに笑っていた。
赤く腫れた目を輝かせて、痛々しい頬を気にする素振りすらなく、まるで本当にしあわせだと錯覚してしまう程に。
「そうか。良かったな」
相槌を打ちながら話を一通り聞いていれば、すぐに嫉妬深い猫がやってくる。
幼いアリスは無邪気に猫にじゃれついて、そのまま俺のことなんかすっかり忘れて猫と何処かへ行ってしまうんだ。
それでも良かった。
アリスが幸せなら、それで。
それなのに、お前はいつから歪んでしまったんだ?
俺を忘れ、ウサギも猫もみんなも忘れて
「みんなみんな、いないの」
俺たちは此処にいるのに。お前が作り出した世界に、俺たちは確かに存在しているのに。
俺たちはもういらないのか?それならどうしてお前は泣いているんだ?
「いないの、いたらおかあさんがないちゃうから」
泣かないでくれ、俺らのアリス。
笑って、なあ、笑ってくれよ。
誰がお前を泣かせてるんだ?
ウサギか、猫か、それとも…この世界全てか。
「…お前が望むなら、」
俺は、俺たちは、
僕らの絶対
きみのしあわせ
欠片も残さず消えてみせるよ
きみが笑ってくれるなら
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