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よしなし事(キリ番3400凛音様 リク:猫アリギャグ)



夜も更け、微かに野良猫の声が聞こえるとある日。

『誰よあの女!!また浮気したのね!?…信じてたのに…!』
『ち、違うんだ!彼女はっ』
『言い訳なんて聞きたくないわ!実家に帰らせていただきます!』

そんなお約束が流れる居間に、少女と青年はいた。
居間は畳に座布団そして卓袱台と、和風で統一されている。
その一隅にこぢんまりとしたカラーテレビが置いてあり、長い黒髪の少女は卓袱台にいくつかの参考書とノートを広げ、灰色のローブを着た青年はテレビの正面に陣取り、食い入るように画面を見ていた。
とは言うものの、青年の顔はほぼローブのフードで覆われているため実際にテレビを見ているかは不明だが。

「アリス、何をしているんだい」

青年が少女に問うと、アリスと呼ばれた少女はノートに目を落としたまま答える。

「国語の宿題よ。怪訝とか亡命とか、単語の意味を調べるの」

そう、とだけ呟いて青年は画面に集中した。
画面では冒頭の台詞を吐いた女性を男性が引き止めている画が映っている。

「アリス」

青年が少女を呼ぶと、アリスは変わらずノートに目を落としたまま「何?」と答えた。

「ジッカは美味しいのかい?」
「…ジッカ?」

アリスは不可思議そうに首を傾げ、もう一度“ジッカ”と呟いて“実家”と結びつける。

「あぁ…チェシャ猫、実家は食べ物じゃないよ。自分の家のこと」

些か面倒そうにアリスが告げると、チェシャ猫は「ふぅん?」と理解しているのか否かつかない返事をした。

「じゃあリコンは?」
「リ…離婚…?えー…と、結婚してた人たちが別れちゃうこと」

アリスはチェシャ猫の問いに依然顔を上げずに答える。
チェシャ猫はテレビの画面を面白そうに眺め、また問いかけた。

「サイバンは?」
「…サイ…裁判、かな?法律に基づいて罪人を裁く所とかそんな感じ」

「アイジンは?」
「愛人?…浮気相手だよ」

「マジョは?」
「マ?…魔女は…魔法使える女のひと」

「ニーソは?」
「オーバーニーソックスの略で、って何見てんの!?」
「ニーソ魔女っ娘マジカル☆はなこたん」

驚くアリスにチェシャ猫は淡々と番組名を伝える。
先ほど言えなかったマジョを正しく発音でき誇らしげなチェシャ猫の手にはテレビのリモコンがあり、画面上では濃いピンクの長い髪をツインテールにし、赤いセーラー服を着てさくら色のニーソをはいたニーソ魔女っ娘マジカル☆はなこたんらしき幼女が踊っている。

いかにも魔法少女というようなステッキ等は持っておらず、踊りつつも視聴者にウインクを飛ばす幼女を見ながら「…萌え……」と呟くチェシャ猫。


「アリス、萌えって何「だめー!!こ、これは教育に悪いわ!!」

キョイク?と首を傾げるチェシャ猫を尻目に立ち上がって叫んだアリスはチャンネルをかえる。
真面目そうな七三分けの青年が映った。

「ニュースみたいね…。ほら、これ見ましょう?」

幾らかホッとしたようにアリスが腰を下ろすと、また教えてもらえると思ったのかチェシャ猫は嬉しそうに笑い、早速聞いてきた。

「ユチャクって何だい」
「…(何だっけ)……くっつくことよ(…嘘じゃない、はず)」

「エンヤスっていうのは何だい」
「エン…!?……円安?(…株価の何かよね)…値段が下がること」

「ボーメーは?」
「ぼ……亡命…?まだ調べてないけど(聞いたことはあるのよね…)…人が亡くなることよ(多分ね)」

アリスがそう答えると、突然テレビ画面が真っ暗になった。
チェシャ猫が電源を切ったようだ。
「どうしたの、チェシャ猫?」
アリスの呼びかけには答えず、チェシャ猫は微かに俯いて呟く。

「アリスも……亡命するのかい」

微かに震える声は、今にも泣き出しそうで。

「…わた、し…は…」

一旦言葉を切って生唾を飲み込む。

「私も…いつかは、亡命するのよ」
「どうして」
チェシャ猫は益々俯いて、震える声を張った。

「…人はみんな、いつかは亡命するの」

そっと微笑んでみせると、チェシャ猫は「なら、」と言う。

「望んで。僕が君と共に亡命することを」
アリスはぐっと息を詰めてチェシャ猫を凝視した。
アリスの瞳に溜まった涙が静かに落ちる。

「…一緒に、亡命しよう」

疑問符のついていないその言葉に、アリスは微かに頷いた。


――――宿題を進めたアリスが、

【亡命】 ぼうめい [亡命]〈スル〉 政治上の理由から,他国に逃亡すること.

を発見するのは、このすぐ後だった。


とある日の
よしなし事


以下、あとがき

キリ番3400を踏んで下さった
凛音様に捧げます!!
な、長い上に笑えない…!せっかくいただいたリクがこんな駄文になってしまってごめんなさいorz
凛音様に限りフリーです。




あきゅろす。
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