「ちぇしゃ猫、あなたはどうしていつも笑ってるの?」
幼いアリスは長い髪を揺らして、自らが乗っている灰色の三日月を見やる。
草原に仰向けに寝転がっている灰色が少し動くと、その上に寝ているアリスも合わせて揺れた。
それが気に入ったのか、アリスは笑って灰色の上で跳ねる。
灰色がいささか苦しそうな息を漏らしつつ、腕を伸ばして
跳ねるアリスを抱きしめた。
「…それはね、アリス」
灰色は、より一層笑みを深める。
「この世界は、夢だからさ」
灰色がアリスにそう言うと、アリスは暫くきょとんとしていたが
「…ゆめぇ?」
怪訝そうに首を傾げた。
「アリスがすきだからじゃないの?」
拗ねたように言うと、灰色はまた笑う。
「勿論。僕らは君を愛してる」
「嘘ばっかり!」
アリスはその顔をひどく歪めて、今にも泣き出しそうに叫んだ。
「嘘よ、そんなの嘘!みんなみんなアリスが嫌いなんでしょう!だからみんなアリスと一緒にいてくれないんだわ!」
とうとう泣き出したアリスの髪を、灰色が撫でる。
「…僕らのアリス、君が望んだんだよ」
「望んでないわ。アリスはそんなの望んでない」
アリスは灰色のローブを強く掴んで、灰色の瞳があるだろう部分を睨んだ。
灰色はさらに笑みを深めてその視線を受け入れる。
「アリス、アリス、僕らのアリス」
涙で視界が歪むように、否、それは決して比喩ではないのだけれど―――
「ちぇしゃ猫、ちぇしゃ猫?」
ゆっくりと、しかし確実に
精一杯掴んでいたはずのローブの感覚が無くなっていく。
「君が望んだんだ、この夢の終わりを」
優しく髪を撫でる灰色は、やはり笑っていた。
「もう夢に戻ってはいけないよ。君の世界は此処じゃない」
「嫌、嫌よ、消えないで!」
もう灰色と世界の区別がつかなくなった視界の真ん中で、その三日月だけはやけにはっきりしていた。
「―――亜莉子」
びくり、と亜莉子の肩が揺れる。
「僕らは消える。夢は終わりだよ。もうお戻り」
「やだ、消えないで」
戻りたくないよ、此処にいたいよ
「ねぇ、“お願い”!!」
アリスが叫ぶと、歪んだ視界を闇が飲みこんだ。
「―――僕らのアリス、君が望むなら」
闇の奥で、灰色が笑った。
幻想は常に
甘美
(そして少女は)
(目覚めを放棄する)
以下、あとがき
キリ番555を踏んで下さった
なっつん様に捧げます!!
子アリスが可愛くなくてごめんなさい…!;
なっつん様に限りフリーです。
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