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間駒(キリ番4600:悠様 リク:アリ猫)



ふと、誰かに名前を呼ばれた気がして、少女はぼんやりと意識を浮上させた。
たった今、呼ばれたことに気づいたような気もすれば、もう長いこと耳を塞いで、聞かまいとしていたような気もする。

遠くからか近くからか、それどころか本当に自分を呼んでいたのかさえひどく曖昧だ。

ただひとつ分かるのは、その声が本当に切実で真摯だったということだけ。


意識は未だ覚醒には至っていないものの、半ば反射により目を開く。
その瞬間映る、一面の灰色。

それは少女が半ば同棲と言えなくもない状況にある灰色のローブを愛用している猫だ。

猫とは言え、定番の鳴き声も発しなければ四つ脚でもない。
見た目は変質者、もとい人間に近い。


「…起きたのかい。アリス」


猫が地を這うような声で問う。
アリスと呼ばれた少女は答えようとすれど、ひゅ、と意味を成さない空気が漏れるばかり。
どうやら、目の前の灰色が声も出せない程強く抱きしめているらしいと気づいたアリスは、動きづらい腕で精一杯猫を押し返した。


「なんだい」


分かっているくせに、いけしゃあしゃあと惚ける猫をさらに押し返すと猫は渋々拘束を緩めた。

夜は確かに一人で眠りについたはずだというのに、いつの間に潜りこんだのか。
アリスはそう聞こうとして、ふと目覚めたきっかけを思い出した。


「チェシャ猫、私を呼んだ?」

返事はない。
猫の表現を見ようにも、アリスは依然として猫の腕のなかに居り上を向こうにも頭に猫の顎が当たるだけだ。

返事をしないチェシャ猫に痺れを切らせたアリスがもう一度聞こうとしたとき


「呼んだよ」


チェシャ猫は答えた。


「何度も呼んだ。何度も何度も、君が僕らを創ったときから」

今だって。

そうチェシャ猫は言うと、そっとアリスを離す。


「君が別れを告げたときだって、僕は君の名を呼んだんだ」


君は別れを、世界の終わりを望んだというのに、
僕は叶えてあげられなかった。

それどころか、
どうしたって届かないことを知っているくせに
未練がましくずっと君を呼び続けたなんて、


「君の望みを叶えるためだけに、僕らは創られたのに」

ごめんよ、アリス。


チェシャ猫が布団から出ようとすると、ローブが何かに引っかかった。猫の腰辺りのローブを固く握っているアリスの細い手。

アリスがそれをそっと手前に引くので、猫は抵抗せず従った。


瞬間、静かな部屋に響く微かな音。
それは猫の血色の悪い頬とアリスの鮮やかな唇から生まれたそれは、
アリスが猫に口づけた確固たる証拠だった。


「…もう、願わない、から」


アリスは蚊の鳴くような声でそれだけ言うと、ローブを掴んでいた手を離して猫の首に回す。


「いなくならないで………」


アリスの言葉に、猫が浮かべた笑みの意味を

彼女は知らない。





(ねえアリス、罪悪感でもいいんだ)

(君が僕の傍にいてくれるなら)


以下、あとがき

キリ番4600を踏んで下さった
悠様に捧げます!!
………踏んで下さったのは3/16だったんですけどね!今5/29ですね!
ももも申し訳ありません…!!スライディング土下座でご勘弁ください…! orz三

いやはや難産だった割にリクエストに沿ってないですね。
女の子攻め難しい…精進せねばー!

題の間駒は、将棋で、防御のために打つ駒のことらしいです。

今回の駄文は
「徐々に母の死から立ち直り、不思議の国から現実へと過ごす世界が変わってきたアリス」と
「どんな手を使ってでもアリスを引き止めていたいチェシャ猫」の話だったので
題に使わせてもらいました。

こんな駄文ですが受けとっていただけると嬉しいです!
リクエストありがとうございました!





あきゅろす。
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