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dust
たあ


7月末のうだるような暑さの中、まさに蒸し風呂状態の部屋で、少女は必死にプリントと格闘していた。
本来クーラーが効いているはずの少女の部屋は、節電にかこつけた電気代節約のために壊れて弱風しか出ない扇風機を気休めにつけているのみである。


「………暑い」
「おん」

少女が呟くと、背中合わせで団扇を扇いでいる少年が応えた。


「おんやあらへんやろ。
 何であんたこんなくっつくねん」
「暑いからや」
「…暑さで脳溶けたんとちゃうん」
「かも知れん」

嫌味を込めて吐いた言葉も意に介さず、少年はただ団扇を仰ぎ続ける。
体温の低い少年の背も少女の熱が移り、もはやこの暑さを助長するものでしかない。


「ちゅうか、」
「ん?」
「暑いんやったら窓くらい開けぇや」
「嫌やわ、こないだ蝉入って来てん」
「…追っ払ったるから」
「ぶは、おもっくそ嘘やん!
 あんたに頼むなら弟に頼むわ!」
「何でや」
「ヘタレやからや」

少女の言葉に二の句が継げず、思わず振り向いた首をまた元に戻した。


蝉が高らかに鳴いている。
窓越しに見る外は太陽が照りつけ、いかにも暑そうだ。

ローテーブルの上には汗をかいたコップが2つ、それと小さなモノ消しゴム。
夏休みの課題を広げた上に覆い被さるようにしてうんうん唸る少女の手には、ご当地の猫が笑うシャーペン。


「なぁ」
「なん、ヘタレ」
「ヘタレちゃうわアホ。
 …なぁ、離れろて言わんの?」

は?、と少女が怪訝そうに振り向くが、ちょうど背を向けている少年の表情は伺えない。
ただ、二匹の赤い金魚が描かれた白い団扇が揺れるのが見えるだけだ。


「暑い言うたし、何で言うたけど、
 離れろて聞いとらん」
「言うてほしいん?」

ぴたりと、金魚が動きを止める。


「…………………………嫌や」


ぽつりと呟いた言葉と同時に、先程から動きを止めていたご当地の猫は机に転がった。


「暑いねん」
「…おん」
「重いねん」
「おん」
「宿題もやらなあかん」
「おん」
「でも構ってほしいんやろ」
「お、ん!?
 ちゃ、ちゃう!…くは、ない、」
「…やったら、」

こんなまわりくどいことせんと、はっきり言うてみいや。


背中越しに、少女が笑う感覚。
金魚を何度か往復させて、少年も笑った。


「…一緒に、親指探し…せぇへん?」
「死ね」

宿題

(何でやー!)
(一人かくれんぼでもせぇやアホ)




あきゅろす。
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