dust
たあ
道路の隅に、黒い物体。
走る車は元より、そばの歩道を歩く者達の視界にすら入らない。
微かに上下するは、それの腹。
車に跳ねられ、隅に飛ばされた黒い猫の腹。
開かれた眼は虚ろで、おそらくもう寸刻も保たぬ命。
ふ、と影が猫を覆う。
それは少女。
黒髪の、まだ十にも満たぬだろう幼い女児。
「しぬの?」
拙い言葉で少女が猫に問う。
猫は細い息で微かに鼻を鳴らした。
「…さびしい?」
応えたかのように猫の虚ろな目が濁る。
開け放たれた口から、ごぼりと赤黒い血の塊が流れ出た。
微かに上下していた腹が動かなくなる。
「ねぇ、…くやしい?」
うずくまった少女は首を傾げ、もう動かない猫に手を伸ばした。
透き通った手は猫の体を貫通する。
その手は綺麗なまま、何も掴んではいなかった。
うずくまったまま、濁った猫の眼をじっと見据えて
少女は笑った。
「あたしはね、」
未練、邂逅。
(さびしかったよ)
(くやしかったよ)
(あたしがせかいからきえたとき)
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