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dust
僕シリーズU

目の前は一面、鮮やかとは言い難い紅。

はて、どうして殺ったのだったか。
地面に横たわる少年の顔をまじまじと見る。
左胸を貫通しているのは確かに、僕のナイフ。

後ろを振り返ってみれば、かたかたと震えている痣だらけのやせ細った少年。
殺った少年の使いの者だろう。


…あぁ、彼らが道のど真ん中で服を汚しただか何だか小競り合っていて邪魔だったから片方を刺したんだ。
小競り合いとは言っても、やせ細った少年が一方的に殴られていただけだったが。

海と比喩するには足りないとは思うが、趣味の悪い派手な衣を纏った、おそらく金持ちの坊達の最期にしては上出来と言えよう。


「良かったな。服、綺麗になって」

もう動かない坊を揶揄するように笑うと、後ろで縮こまっていた坊の使いが酷く歪めた顔で呟いた。

「わたくしは、かれのめしつかいなのです」
「…だから何だ?」

先を促せば、少年は微かに嗚咽を漏らした。
「…めしつかいが、こんなことをいうのは
 わるいこと、ですが」

花が咲いたように、少年が笑った。

「…っありがとう、ございました…!」

その言葉に、瞬間意識が飛ぶ。


我にかえると、もうひとつできた紅が目に入った。

いけない。殺る瞬間、意識が飛ぶ癖をいい加減直さなくては。

で、どうして殺ったのだったか。
…ああ、ああそうだ。そうだった。
目の前で主人が殺されたのに笑顔で礼を言った少年に苛ついたのだった。

人が人を差別し、蔑み、踏みにじり。
人殺しが笑顔で礼を言われる。

こんなにも汚れたセカイで
君はどうしてそんなに笑えるのだろう。

浮かぶのは、甘く弱い君の笑顔。


問いかけたなら、愛しい君は笑うだろうか。
汚れてなんかないと諭すだろうか。
もしかしたら怒るだろうか?
君が怒るところなんて見たことがないけど。

…見たいかも知れない。
でも怒らせたくはないな。
君は笑顔があんなに似合うのだから。

やはり聞くのは止めよう。

懐から時計を出すと、そろそろ夕暮れ時だった。
今日の夕飯は何だろうか。

考えながら適当に死体を蹴飛ばす。
おや、ナイフを刺したままだったか。

もうすぐ愛しい君に触れるというのにこんな物でこれ以上手を汚したくはないな。
今だってこれらの返り血で右手が濡れてしまっているのだから。

…どうせ汚したナイフだ、手向けにでもするか。冥界に持っていって、殺し合いでもするがいいさ。

一瞥して背を向ける。

前を向けば、走ってくる君の姿。
そんなに走ったら転んでしまうといつも言っているのに。

君がこれらを見なくて済むよう、僕も走る。

僕は右手についた血を拭って、
僕に笑う君に笑った。

―――生きる世界は無色。
君がいれば、何でもいいよ


あきゅろす。
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