JUSTICE And PIRATES 正義の機関 エニエス・ロビーへと向かう軍艦の船内。クザンは入れ立てのコーヒーを飲みながら、名無しの横顔を眺めていた。 「…………。」 名無しが海軍本部に来て自分と出会い、何度となく一緒に食事をしたり話す機会はあったが、一度たりとも名無しの笑った顔を見た事は無く、目線を合わせる事も無かった。 この子も普通の家に生まれてれば、また違う人生が待ってただろうに…そんな事を考えながらコーヒーを飲み干すと、名無しがエニエス・ロビーに行ってどうするのか、これからどうなるのかを一から順に話した。 「〜〜と言う訳だ。」 『…………。』 「まぁ、色々大変だろうが頑張れ!」 『………。』 クザンの話が終わると、また窓の外を見る名無し。 『……!』 名無しの目に飛び込んで来たのは、上の方が霧で霞んで見えない位高く、そして大きな大きな鉄製の壁。 その壁には、何かのマークが描かれていた。 程なくして、鉄製の壁が開く。 『…壁が開いた…。』 「あれは壁じゃなくて門だ。正義の門。」 『正義の門?』 僅かに開いた門の隙間を軍艦が通り抜けると、正義の門は閉じ何事も無かったかのように、船は進んでいった。 ───── 「世の中には…」 『…?』 静かすぎる室内…。あまりの静けさに些か居心地の悪さを感じたクザンは、突然喋り出した。 「世の中には、何の罪もない人々を苦しめ、命を奪い全てを破壊しようとする輩達がいる…」 『…………。』 「何もかも奪われた人々は、心に深い傷を負う事になるだろう…。そんな人々を出さない為にも、悪を倒す必要がある。 それをするのが我々、正義の機関だ!」 『………。』 名無しは、眉一つ動かさず聞いている。 「お前は、悪を許せないと思うか…?」 『………………。』 何の罪もない奴隷達を苦しめた天竜人も悪…。そんな事を思いながら、名無しは頷いた。 「〜じゃあ、悪に負けないように強くなれ!」 『…………!』 この時、初めてクザンの目を見た名無しだった。 「そういえばお前…悪魔の実の能力者だってな?」 『…違う!知らない!』 能力者=バケモノだと言われ続けて来た名無しは、またバケモノ扱いされ罵られると思ったのか、とっさにウソをつくがクザンには通じなかった。 「…ウソつくなって。」 オレも能力者だから…と、クザンはテーブルの上のフルーツを能力で凍らせた。 『………!!こ、凍った…!カチカチだ…。』 「オレは、ヒエヒエの実の冷凍人間だ。」 『自然系……』 ありとあらゆる物を凍らす事が出来る、ヒエヒエの実の能力者。自然系の能力だ。 『…………。』 「…まぁ兎に角、能力者だという事はあまり気にするな。」 『…………。』 スッと凍ったさくらんぼを差し出す名無し。 『…食べようと思ってたのに…。』 「…あらららら……ι」 海軍本部を出航してから数時間後― 再び正義の門が開き、船はエニエス・ロビーに到着した。 ───── 『…………。』 深い深い滝の上に浮いているような構造のエニエス・ロビー。その特殊な構造が珍しいのか、辺りをキョロキョロしながら名無しは歩いている。 『あの旗のマーク、正義の門のマークと同じだ…』 裁判所の屋上や司法の塔の屋根には、世界政府の旗が風に靡いていた。 ←→ [戻る] |