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「ゆうせいー!朝だぞー!おきろー!」






ある朝の風景







 最近のジャックの起こし方は少々乱暴になってきた。最初のうちは、可愛らしく小さな手を頭にぽんぽんと優しく頭にあてて、ゆうせい、朝だよ。と穏やかな声で起こしてくれていた。そしてその可愛らしい声でぱっと目を開けると、起こして良かったんだよね?と心配そうに眉毛をハの字に曲げてちょっぴり首を傾げてベッドの脇に立っているジャックの姿があり、それがまた可愛らしくて一気に覚醒する…といった風だった。以前までは。
 しかし最近になると、ぼふんっと勢いよく寝ている体の上にのしかかり、手でぺちぺちと布団の上から体を叩き、大きな声で叫ぶようにして起こす…という風に変わっていった。
 いや。今でも可愛い。ジャックの体は軽いから、勢いよくのし掛かってくるといっても、全然重くない。ぺちぺちと叩かれたところで全く痛くもない。これをするのが鬼柳だったりクロウだったりだったら致命傷になりかねないが(精神的にも肉体的にも)、ジャックだったら可愛らしい。一生懸命ゆうせいー!と呼ぶ姿もいい…結論としてはジャックは何をしても可愛いという親ばか的思考に辿り着いた。
 元から少々そういう考えを持っていたとは思うが、最近特にひどくなってきたような気がする。ジャックの何の行動を見ても、可愛らしく思える…そう思っているのは自分だけじゃないようで、クロウも鬼柳も最近の様子を見る限り、それは一緒のようだった。

 3人で暮らしているうちに、最初は警戒心剥き出しだったジャックもだんだんと人になれてきた。人といっても、未だ自分とクロウ、鬼柳の3人だけだったのだが人が近づくだけでも逃げ出していた初めの頃と比べると、ものすごく大きな前進だ。
 ここに来てからも、クロウや鬼柳が近づくと、ゆうせいー!なんて言ってとてとてと走り寄ってきて、きゅっとずぼんを掴んで後ろに隠れていた時が懐かしい。今じゃ、くろうー!きりゅー!と言いながらそれぞれの腹に向かって助走をつけて抱きつくぐらいに二人に慣れた。それが実はだんだんとジャックが離れていくようで寂しい…のだが、本人は勿論のこと、二人の前では口が裂けても言えない。ジャックが人に慣れてきたのはいいことだ、と何度も思って、寂しさを紛らわせている毎日を過ごしている。
 クロウや鬼柳も懐いているジャックをものすごく可愛がっていた。クロウはもともとサテライトの子供達の世話をしているほど子供好きだったし、何となく納得は出来るが、鬼柳の方は意外だった。
 最初ジャックが懐いていない時なんて、拗ねてかわいくねー!と絶叫していたし、あまり子供が好きだという感じでもなかった。というか寧ろ鬼柳は子供嫌いなのだとずっと思っていたが、最近のジャックへと接し方を見るにそれも思い違いだったようだ。
 本当にジャックはもうチームサティスファクションの息子みたいなもんだよなー、とすやすやと昼寝をしているジャックの寝顔を見つめて幸せそうなため息をつく鬼柳を思い出した。
 懐き始めたジャックを鬼柳はこれ以上無いほど可愛がっていた…それはとても良いことなのだが、最近それが行き過ぎて、甘やかしているようにさえ感じる。
 この前も、ジャックが嫌いな人参が入った夕食が出た時、数個食べてあげていたのも奴だった。このことは遊星やクロウには内緒だからなー?まぁ、せめて1個は食えよ。なんて言って、ジャックの頭を優しく撫でながら、スプーン山盛りの人参をジャック専用のひよこが描かれている皿から、鬼柳の皿へと移し替えているのを目撃した。
 二人は見られていることに気づいていないようで、ゆーびきーりげーんまーんと小指と小指を絡ませていたが、こちらはばっちりと完全に見ていた…その時は、飛び出して注意するなんていう大人げないことはしなかったが、次の日のジャックの夕飯のシチューはいつもより野菜が多く入っているのを渡した。ジャックはこれおやさいおおいよー、ゆうせいーと足をぷらぷらさせて、半分泣きながら訴えかけてきて、一瞬心が揺れかけたが、これもジャックの為だ、と自分に言い聞かせてどうにか乗り切った。
 それを見て鬼柳はどうにか察したらしく、あれからジャックの嫌いな食べ物を取ってあげる等の行動はしなくなったが、随所随所で甘やかしているのはどう見ても鬼柳だった。
 クロウは何だかんだで結構厳しいところもあるし(というか一番3人の中で厳しいのはクロウかもしれない。)、自分自身もまた、ジャックを甘やかさないようにはしている…がどうしてもジャックの顔を見ると、何でも願いを聞いてあげたくなるし、ぎゅーと抱きしめたくなるし、やっぱり自分は親ばかだ…ともんもんと考えた後、ジャックのゆうせいー!おきろー!という声で現実に戻された。
 夢と現実が入れ混じった中で思考にふけっていたらしい。頭がいつもの朝以上にぼんやりとしていたが、ジャックが起こしてくれているのにこれ以上寝ているわけにもいかず、ジャックの体がずれ落ちないようにゆっくりと体を起こす。すると、膝の辺りに乗っていたジャックの体がどんどんと上へと上っていき、そのうち太股の付け根辺りで止まった。そして両手を広げ、ぎゅーと思いっきり遊星の腹へ抱きついた。

「ゆうせい、おはよー!」

 その可愛らしい動作にほわほわと眠気に包まれていた頭の中が幸せなピンク色に包まれた。よしよし、と片手はジャックの小さな肩において、空いている方の手でジャックの頭を優しく撫でてやると、さらにジャックの腕に力がこもりさらにぎゅぅと抱きついてくる。子供温かい体温がじんわりと伝わってきて気持ちいい。
 未だ瞼が重くて、しっかりと開かない目でぼんやりとジャックを見ながら今日も最高の朝の始まりだなぁ…と感じながらちゃんとジャックを見ようと、重い瞼をゆっくりと開いた。




「……………………は?」





 今度こそ目が覚めた。
 何も見上げてきているジャックのスマイルが素敵すぎたとかそういう意味じゃなく、いや実際にはめちゃくちゃ良いのだが、今はそういう場合ではなかった。
 すぅと胸の奥まで満たすような深呼吸を一つ吸う。そして心からふつふつと湧き上がってくるものを一気に吐き出すように、諸悪の根元であろうやつの名前を思いっきり吐いた。


「きりゅうううううううううぅうううう!!!!!!」









「な、なんだなんだ!?」

 階段上から聞こえてくる声に思わず手に持っていた箸をぽろりと落としそうになった。
 それをどうにか持ちこたえて滑りかけた箸をしっかりと持ち直す。何なんだ、一体。急に起きた大きな音に心臓がばくばくとなっていたが、深呼吸をすることでどうにか落ち着かせた。そして目の前にあるじゅーじゅーと美味しそうな音をたてて焼けている目玉焼きを先ほど落としそうになった箸で掴んでレタスがしいてある皿へと移し替える。
 ………普通に考えて、さっきの声は明らかに遊星のもので、ついでに言うと階段上の遊星の部屋から聞こえた。たった今、昨夜遅くまでジャンクをいじっていた遊星を起こさせにジャックを派遣したとこだが、一体そこで何が起こったというのだろうか。何も遊星は独り言であんな大きい声を叫ぶわけが無い。というか遊星のあんな大きな声は久しぶりに…いや寧ろ初めて聞いた気がする。
 いつも最低限以外のことは喋らないし、あんなに声を荒げたりしない。
 一体俺は何を遊星にしちゃったんだろうと考えながら、自分の分である目玉焼きのほどよく焼けた黄身の部分を箸で器用に取り、まん丸い黄色の固まりにするとそっと遊星の皿へと乗せておいた。自分の皿を確認すると、ただぽっかりと真ん中が切り取られたかりかりの白身部分だけが残っていて寂しいだけの印象しかないが、もしこれで遊星の機嫌が直るなら安いもんだ…まぁきっと、いや絶対こんなもんじゃ許してくれるわけないけど。

「ジャックなら絶対『お月様が二つもある!』っていって喜んでくれるけどなー」

 にしても何をあんなになってるのだろうか。
 ちゃんと4人分の朝食を乗せた皿をテーブルに並べているとドタドタドタ!とすごい荒々しく階段を下ってくる音がする。
 今クロウは外に行っているため、どう考えてもこの音はさっき上で喚いていた遊星のものだ。くるか…ついにくるか……と昨日、一昨日遊星にやった自分の行いをそっと目をつむり、自分の胸に手をあてながら考える…………が、特に思い当たる点は無い、のが逆に怖い。
 そうこううだうだしているうちに遊星が目の前へと立っていた。ぜぇはぁと荒い息をつきながら、小脇にジャックを抱え、そして鋭い視線をこちらに向かって送ってきていた。
 なんだなんだ!?とこれから来るであろう遊星の言葉にぐっと身構えて、目の前にやって来た遊星を逆に睨み返しながら見つめてみる。

「鬼柳……」
「な、何かあったのか?」

 出来るだけ平静を装ってはみたものの、声が震えてしまっている。青年二人が睨み合っている中、遊星に抱えられているジャックはテーブルの上に並んでいる皿の中身を見て、「あー!おつきさまが二つもあるやつがあるー!」と嬉しそうな声をあげてはしゃいでいた。
 そんな声に一瞬和みかけたが、遊星の地を這うような誰が聞いてもぞっとするような恐ろしい声に一気に現実に引き戻される。



「ジャックに女児用の服を着せるのはやめろ」















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