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02 不器用な生き方
「お加減はいかがですか?」


彩り鮮やかな花達を抱えた名前がこの殺風景な病室にへと静かに足を踏み入れる。


「ああ、まあまあだと言っておこう。」

「それは何よりです。」


嬉しそうに微笑んで、彼女はこの必要最低限のものしかない病室をどうにかしたかったのだろう、手にしていた花を私の寝台の近くに生け始める。


「顔に傷が残ってしまいそうですね。」

花を綺麗に飾りつけながら、彼女は私の顔を盗み見て、そう呟いた。


「まあ、それは致しかたないさ。命があっただけでも信じられないような状況だった。…ああそれとも、傷がついた私は嫌いかな?」


わざとおどけたようにそう明るく言ってやれば、彼女はほっとしたようにはにかんだ笑顔を私に向けてくれる。


「そんな事は…っ。
ただ、私は貴方が無事に変えてきてくれただけで嬉しいんですから。」


「本当に慎ましいな、君は。それに君の御両親も。何もない私に君のような娘を嫁がせようだなんて。」


「お父様も貴方がこのようになられた時は悩まれたそうですが、私が惚れたのはエ―カ―君の人柄だとおっしゃっていました。」


「そう、か。それはずいぶんと光栄な話だ。…名前。私が孤児だったという話は聞かせたことがあったかな?」


「はい、以前に少し…。」


「家族の暖かさなんて久しく感じる事もなかった私は、君の家族の仲の良さが何よりも羨ましかったよ。私も君とそんな家庭を築きたいと願ったものだ。」


それは、確かに私の本心から出た言葉だった。
しかし、それを望む私がいると同時にまた別の望みに心奪われている私がいるのもまた事実。


「私もずっとそう思っています。もちろん今も…。」


「何故、だろうな。私はこうして生かされて君と再び巡り会えたというのに、どうしても心の霧が晴れないんだ…。あれ程までに好意を抱いていたガンダムが、今は…憎らしくて仕方がない。」


「グラハム…。」


「ハワード達も私が復讐に取り付かれる事など望んではいないのかもしれない。それでも、私は、どうしてもこの手でガンダムを落としたいと切望している…。私はそういう男だ。結局は戦いの中でしか生きられはしない。君を…幸せになど出来はしないのかもしれない。」


「どうして…っ、私はあなたが帰ってきてくれたこと、それだけで幸せです…!」


必死にそう言って私をいさめようとする彼女の薬指にきらりと光る一筋の輝き。
それは、私が名前に贈った結婚指輪だった。


「君は、ちゃんとそれをつけていてくれているんだな。」


その指輪が輝く


「当たり前です。これは、あなたがくれた大切なものですから。」



「私が、これからまた戦場に戻るとしてもそれでも君は私についてきてくれるだろうか?」


「元より、貴方は軍人です。その覚悟は出来ています。」


「名前、私は君を遺して、ガンダムと討ち死にする覚悟の上で戦場に出るのだとしても、か?」


「…私は、貴方を愛してます。それに、貴方が何より空と、仲間の皆さんん愛していた事を知っているから…だから…っ、私には貴方を止める権利はありません。」


嘘だ。
本当は私をもう一度戦場に送り出す事など、平和を願う彼女が望むはずはない。
震える声が、暗にそれを伝えているような気がする。


私が進もうとしているのは修羅の道。
これより先に、名前を連れていくなど、あってはならない事に違いない。

それだというのに。
彼女はそんな私をも見捨てないでいてくれるというのか。


そして、結局彼女を完全に突き放す事が出来ない私も、まだ迷い続けているという事だろう。


ああ、不器用な生き方しか出来ない男だ、私は。

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あきゅろす。
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