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甘い蜜
昼寝の邪魔者


 午後2時。真上にきた太陽が燦々と輝き部屋を明るくする。窓を通しての日差しだが床に横になっている俺の背中はほかほかと暖かい。あー、すげぇ気持ちいいな、これ。

 今日は土曜日で、大学もバイトも何もない日。朝もゆっくりと遅く起きたけれど、掃除やらレポートやらは思った以上に早く終わり、昼食を食べてからは何もすることがなく今に至る。

「ん、……」

 こんなゆっくりとした日は久しぶりかもしれない。2年生になってから直ぐは講義選びや、バイト三昧で毎日忙しかったし。
 今日は久しぶりにゆったりとのんびり過ごそう、と決めた矢先家のチャイムがなった。

「あー?出んのめんどくせぇな」

 どうせ勧誘かなんかじゃねーの。そのうちいなくなんだろ。

 日を全身に浴びたまま、また眠りに入ろうとした時ガチャッという鍵を開ける音がした。

 まさか……


「秀(しゅう)くーん。居留守なんて酷いんじゃない?」

 バタバタという足音と共にリビングに現れた女。はぁ、人がせっかく眠ろうとしていたのに。何しに来やがった。

「あー、シカトっすか。上等だね」
「うるせぇな。静かにしろよ」
「はっ、人がせっかく来てやったのに」

 あー、マジでうるせぇ。こいつに合い鍵なんか渡すんじゃなかった。渡してなかったら俺は今頃夢ん中なのに。

 なんて思いながら顔を上げると目に入ったのはいつもよりだいぶおしゃれした莉麻(りま)の姿。んで、そんな気合い入ってんだ?
 あー、そう言えば今日友達と買い物っつってたっけ。昨日うっきうきで俺に話してたな。…あ?だったら何でここにいんだよ。帰れよ。

「おい莉麻、お前買い物は?」
「………」
「……あ」
「………」
「もしかしてドタキャンされた?」
「死ね」

 うわ、まじかよ。昨日あんなにはしゃいでたのに。憐れだから少しだけ同情してやる よ。
 図星だったからかめっちゃ睨んでくる莉麻から視線を外して、俺は床からソファに寝っ転がった。

「お前居てもいーけど俺の邪魔すんなよ」
「何すんの、秀くん」
「昼寝」

 静かにさえすりゃあ居させてやるよ。すると顎に手を当てて何やら考え始めた莉麻。何をそんなに考える必要があるんだと思っていたら、急ににんまり笑い出した。

「あ?」
「んじゃあ、私も昼寝する」
「…ん」

 それは非常にありがたい。その答えが出たお前の頭に今は感謝する。
 返事をした途端抱きついてきた莉麻に俺も背中に腕を回して抱き寄せ、狭いソファの上に向かい合って目を閉じた。

 すりすりと頬を俺の胸に押し付ける仕草にくすぐったく、同時に愛おしく感じた。なんだ、こいつにも結構可愛いとこあんじゃん。だから、その後頭突きしてきたのは寛大な心で許してやる。
 閉じていた目を少し開くと、目の前に莉麻の色素の薄い茶髪が視界一杯に映った。柔らかそうなそれを撫でると莉麻は気持ちよさそうに目を細める。

「秀くん、今日はゆっくり二人っきりで過ごそーね」
「…ん」
「もう聞いてる?」

 返事の代わりにぎゅっと抱き締めるとくすくすと笑う声が聞こえた。それがまた俺の耳に心地良く響いて眠りの中へと導く。
 
そして、あと少しで意識を手放す時全然心地良くない、むしろ不快な機械音が近くでした。

「あ?」

 ピッという音と共に機械音が鳴り終わると次は莉麻の声が聞こえる。それが電話だと理解したのは莉麻が話を始めたとき。

「もしもし!ん、……え、本当!?うん、行く行く。行きたい!」
「……」
「え、全然。むしろ暇だったし」
「……」
「分かったぁ、じゃ後でねー」

 ……。
あ?何だよ、今の会話。携帯を切った莉麻は起き上がり、俺を見下ろしながら言葉を続ける。俺も上半身だけを起き上がらせた。

「秀くん。非常に残念だけど私、友達にお呼ばれしちゃって。だから本当に残念だけど、行ってくるね」

 おい、残念の割にはにっこり笑ってんじゃねーか。そーかそーか、どうせ昼寝は暇だもんな。勝手に行きやがれ。

「あー、秀くんとお昼寝出来たのにマジで惜しいことしたな」
「じゃあ居れば?」
「いや、友達にどうしてもって言われたし」「そんな友達やめちまえ」
「いや、友達なくしたくない」

ちっ。てめぇは彼氏より友達を取んのか。しかもどれも否定しやがって。最低な奴だな。
 そう言い合いしてる間に莉麻は支度を終え、今にも出掛けようとしている。ったく、こういう時だけは素早い。

「では、行ってきます」
「あっそ」
「もっとさ、行かないでオーラ出してよ」
「……。じゃあ行くな」
「うん。行ってきます」
「うぜ」

 あははと笑いながら出て行った莉麻。何を望んでんだか、さっぱり分からねぇ。つーか、そもそもあいつの頭を分かろうとすること事態が不可能。
 あーあ、なんかゆっくり過ごそうとしたのに、余計疲れた気がする。いや、疲れた。

 …てか、



「完全に目が覚めた」




─fin

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