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友情から脱線
2

「イッテ!」

「っそれは、俺の台詞だこのアホ!」

 息切れしつつも鼻を押さえながら長谷の頭を平手打ちした。
今の一部始終を見ていたのか、部室棟裏にある自販機の前にいた女子数人が、チラチラこちらを見てはクスクス笑っている。
長谷は打たれた頭を片手にハッとして俺を見た。

「俺、なにしてんだろ……」

俺を見つめていた長谷の顔が、見る見るうちに絶望の色に染まる。

「なにって、はあ? なんかあったから連れてきたんだろ?」

「……」

ゆっくり視線を外された。
この反応、どう考えても妙だ。

「お前、もしかして、嫉妬?」

まさかと思って尋ねてみれば、長谷は素っ頓狂な声を上げた。
が、またなにやら我に返ったようで取り繕うみたいにへらりと笑い、パシンと俺の肩を叩いた。

「ははは。お前、どんだけ自意識過剰なんだよ。ホモネタは飲み会だけで十分だって」

「はあ? 違えよ、俺じゃなくて」

エリカの方だろ。
そう目で訴えると、長谷の顔がピシリと固まった。

「え、あ、そうだよな、うん。違う、間違えた。今の間違い」

「そうだよな」

「そうだよ」

2人でしばし沈黙。
いつの間にか、辺りから人気がなくなっていた。
食堂や売店から距離のあるこの場所に、わざわざ昼食をとりに来る学生は少ない。
そもそも、文化部でもなんでもない俺達がこの場所に赴く理由なんてこれっぽっちもない訳で。

 あぁ、やっぱり変だ。何が変って、長谷の言いたいことが嫌でも伝わるのが。
これはアレだ。
少女漫画とかでよくあるアレ。
ここ最近の俺達の出来事に笑えるくらい重なる。
しかも今この時は、その少女漫画でいうエンディング。
いや、そんな馬鹿な。
俺とコイツは友達だ。
コイツとは笑いあり青春ありの仲であって、決してときめきとか胸キュンとか感じるような――、

「大木って、今日」

「あ? ……うん?」

「暇?」

俺は長谷を見た。
目は合わない。
長谷はそわそわしていて、なんだかちょっと涙目で、困り切った顔をしている。
凄く、からかいがいのある顔だ。

試しに暇、と言ってみた。

「…………あ、そ」

長谷の瞳が一瞬嬉しそうに見開かれた。
が、すぐにつまらなそうな顔になる。

いや、違う。
俺にはわかるぞ。
コイツ、今すげー喜んでる。
なのに一生懸命なんでもないみたいな顔なんか作って。

おもしろい。
「嘘。暇じゃない」

「えっ……」
目が合う。
捨てられた犬かお前は。

「嘘。暇」

「えっ、な、…はあ!? おまっ、どっちだよふざけてんのかあ!」

長谷がついにキレて俺のケツを蹴った。
バシッ! と鈍い音が辺りに響く。
地味に痛い。

「ふざけてるに決まってんだろ。だって、お前で遊ぶのが俺の趣味だし?」

ニヤニヤ笑う俺に二の句が告げなくなった長谷。

やっぱりコイツおもしろいな。

そんなことを思っていると、クイッと服の裾を引かれた。
見れば難しそうな顔で長谷が俯いている。

「じゃあ、俺で遊べば。……今日一日」

「……」

「……」

「……え?」

「……う、うわああああっ!? なに今のなに今の!? 俺キモいもうヤダ死にたい……っ」

 頼む罵ってくれその方が気が楽になるから、とかなんとか呟いて頭を抱えしゃがみ込む長谷の頭を上から撫でた。

 どん底まで落ち込んでいる長谷には悪いけど、一言言ってやりたい。

お前、可愛過ぎだろ。






(おわり)




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