[携帯モード] [URL送信]

秘密コウサク
これが恋ってやつなのか


あれから一週間が過ぎた。
そのまま5月が過ぎ、6月が過ぎ、一学期が過ぎようとしている。

オレは相変わらず部活に励み、球拾いをし、コート整備をし、素振りに精を出しては、ジャージ姿で電車に揺られる毎日を過ごしていた。

あれから奴とは会ってない。
会うというか、見つけられてない。
5月半ば、偶然奴と目が合ってからというもの、オレは電車に乗る度にそわそわしていた。
見つけたら絶対話しかける。
そう決めていた。

けれど、次の偶然はいつまで経ってもやって来なかった。
通学帰宅を繰り返していればいずれ合える。
2度あったんだ。
3度目だってきっとある。
そう思い続けて、あっという間に日々は通り過ぎていった。

考えてみれば東京の人口は膨大だ。
それに電車も数分刻みで次々とホームへやってくる。
そんななか、同じ電車の同じ車両の、オレの目の届く範囲に奴が現れる。その確率は一体どれくらいなのだろう。
きっと、どうしても見つからないテニスの球が見つかる確率よりも、低い。あの時は運が良すぎた。
満員じゃなかったから、すぐに見つけられたし。
もしかすると同じ車両には何度か乗車しているかもしれないが、見つけられなければなんの意味もないのだ。

奴の制服を頼りに学校まで行ってみようかとも考えたが、男子高校生が名前も知らない男子高校生を訪ねに行く図っていうのが笑えなくて止めた。
これが女の子なら少女漫画の冒頭を飾れるんだろうが、あいにくオレは男だ。笑えない。
男が男に会うのに必死とか、本当に笑えない。
なのになんで。

オレはいい加減疲れていた。
電車に乗るたび四六時中そわそわしているのも楽じゃない。
緊張状態が続くせいか、このごろは夜から朝にかけて、体中に痛みが走るという不可思議な症状まで現れてきた。
オレは奴と会って、話して、どうしたいのだろう。
友達になりたいんだろうか。
何度も自問自答した。
それで結局は、会って話せばなんとかなるか、って結論に落ち着く。
その繰り返しだった。


そしてその時は突然やってきた。

帰宅途中。
奴が電車から降りていくのを見つけたのだ。
気がつけば電車から飛び降りていた。寸でのところで降りられたが、鞄がドアに挟まった。
力の限り引っ張ったが抜けない。
紐のところでドアがぴたりと閉まっているもんだから、このままだと電車が動きだしそうだ。
中で乗車している人も気づいて、ドアを開けようとしてくれている。
だというのに、オレの頭は奴のことでいっぱいだった。
やっと会えたってに。
奴が行っちゃう、また行っちゃう。
そうやってドアをガシガシやっていたら、ふと影が落ちた。




[*前へ][次へ#]
[戻る]


あきゅろす。
無料HPエムペ!