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秘密コウサク
2


「あ」

無意識に声が出た。
いた。
いたいたいた…! 
向かい側一つ先にオレと同じようにドアの隅っこに寄っかかっている。
そうだそうだあの顔だ。
あの顔だよ。

オレは奴をガン見していたことに気づいて、はっとした。
スッと視線をずらす。
でもすぐに気になって奴を盗み見る。

窓の外を見ていた。
ほんの数メートル先にいるのに、すごく遠くに感じる。
オレのこと、覚えているだろうか。
もしかしたら、このジャージだけでも覚えているかも。
いや、中年男の方が強烈すぎてオレなんか覚えていないか。

ついと目が合った。
奴はキョトンとしている。
オレは焦った。
焦っていたら、奴がじんわり笑った。
オレはますます焦った。
首から上が熱い。
うわあ、と思った。

ぎゅうっと目を瞑った。
それから、なんでもいいから声をかけようと思った。

なんだろう。
なにがいいだろう。
久しぶり。
違う。
その節はどうも。
違う。
えーとえーと、この間はありがとうございました。
これか? うん、これだ。

オレはキッと目を開けた。
奴がいない。
いつの間にか電車が停車していて、ドアが開いている。
閉まった。

オレは呆気にとられて、しばらく突っ立っていた。
駅を一つ乗り過ごした。




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