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秘密コウサク
オタマジャクシにさようなら





「津田ぁ!?お前、デカくなったなあ!」

テニス部の合宿二日目。下っ端の一年でOBの先輩を駅まで迎えに行くと、開口一番そんなことを言われた。

「そっすかね?」

「そっすよー! GWん時より5センチはデカくなってるな。声までなんか変だし、こりゃあ完全に成長期だなあ!」

成長期……!
その単語を聞いてオレは小躍りした。一年の奴らにもよかったなー! なんて頭を叩かれた。縮むから止めろなんて言ったが、嬉しすぎてそれどころではない。だって、待ちに待った成長期だ。おまけにオレは声変わりまでし始めているらしい。最近やけに声が掠れるなあと思っていたが、まさか声変わりだったなんて! 確かにオレは3月の後ろも後ろの生まれだが、それにしたって遅すぎると思っていたんだ。

今年の合宿拠点である避暑地の安い民宿まで先輩を案内すると、早速身長を測らされた。春の身体測定では158センチだった。ドキドキしながら柱に身を寄せ、頭の上に手を翳される。

「よし、何センチだ?」

民宿のおばさんから借りたメジャーで、畳から翳した手の平までぐいっと帯を引き伸ばす。

「ひゃく……、165です!」

「な、7センチアップ……!」

オレが感涙しつつも声高らかに宣言すると、先輩も1年4人もあんぐり口を開けていた。数秒経って怒号とともに体中を叩かれる。まさか、この5ヶ月の間で7センチも伸びるなんて。「ギネス登録しようぜギネス!」なんておふざけの台詞がおふざけに聞こえなくなる。通りで最近体中が痛い訳だ。5ヶ月で7センチも伸びれば骨もきしむ。
165センチかぁ。尋常じゃないくらい背の低い男子から、平均よりかは背が低い男子にランクアップだ。ああヤバい。顔がにやける。

オレ以外の一年が便乗して身長を測り始めるのを横目に、ニヤニヤ気持ち悪く笑っていると、先輩が荷物の整理をしながらオレを見上げた。

「津田お前、覚悟しとけよ? 俺の同級生で卒業までに30センチ伸びて、制服ピッチピチになった奴いたかんな」

「マジっすか!?」

「マジだ!」

制服がぴちぴちになるほど成長するなら、オレのまだ見ぬ成長期を予期しての制服選びは功を奏したこととなる。数年も経てば、“セルフ彼シャツ”なんて不名誉な呼ばれ方はしなくなるだろう。
よっしゃあ! と叫ぶと、隣室にいたはずの2、3年生がうるせぇぞ1年! と乗り込んできて、5人まとめてこっぴどく怒られた。





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