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秘密コウサク
9


ニコニコ顔の幹人さんと当惑するオレをほくほく顔で見送る茶髪店員。
数十分の出来事だったというのに、びっくりするくらい疲れた。
だが、その買いものに付き合った幹人さんはもっと疲れたはずだ。
それに幹人さんの右手に下がるあの水色のショップバッグが気になる。
オレはレジなんか行ってないから、確実に幹人さんがお金を出して購入したものだ。
オレは商店街の人混みを縫うように歩いて行く幹人さんの腕をくんと引いた。

「幹人さん。その服さっきのだよな? 金、オレ払うよ」

腕を引かれた幹人さんはキョトンとしてオレを振り返った。

「敦子はこれ欲しいの?」

「そ、れは」

今まで散々やっておいてなんだが、オレに女装趣味はない。
オレが女子の制服を着たのも、試着をしたのも、明け透けに言ってしまえば幹人さんの可愛い反応が見たかったとか、そんなどうしようもない下心があってこそ成り立ってしまった訳だし。
尻込みしていると、幹人さんの唇がゆっくりと弧を描いた。

「僕はこれを着た敦子が欲しい。だから僕がこれを買ったんだ。敦子は何も気にしなくていいよ」

なんだそれ。

「な、なら気にする! オレだってオレを見て喜んでくれる幹人さんが欲しい!」

オレの掠れた声がざわつく路地に妙に栄えた。
こちらを振り返る通行人の視線を肌で感じる。
通りがかりに“バカップル”なんて揶揄が聞こえた。
頬が熱い。
幹人さんが欲しいとか、オレは何を言っちゃってるんだ。いや、もう幹人さんに“オレの”って書きたいくらいには大好きだけど……!

「〜〜ッ! もう、こっちおいで!」

「おわ! 幹人さん、どこにっ」

「いいから!」

掴んでいた腕を逆に掴まれ、ぐいぐいと引っ張られる。
どんどん人気のない方へと連れられ、オレは困惑した。
ついには高架下に程近いビルとビルの間に入り込み、人影一つない暗がりへと滑り込んでしまう。

「幹人さんっ! ちょっ、どうし――、んっ」

ぐいと肩を引き寄せられて口に、なにか柔らかいものが触れた。

あれ、コレって……、なんて考えてる間にも、幹人さんは角度を変えて長く啄んでくる。
びっくりして硬直するオレ。
その間に壁際へと追い詰められて、完全に逃げ場を失った。汗がオレの首筋を伝うのと、幹人さんが色っぽく吐息漏らしたのはほぼ同時だった。

マズい……、勃つ。

……。

あ゛ッ!?

息子が元気になってしまったのがバレたら、必然的にオレの性別もバレるじゃないか!
焦って小刻みに幹人さんの胸を叩くと、意外とあっさり唇を離してくれた。

「なにか僕に言うことは?」

「……い、言うこと!?」

「あるよね?」

え、ちょっと待った。ほ、本当にマズいぞこの状況。
真剣な眼差しに射抜かれて、混乱した頭で必死に考えるが、駄目だ。無理だ。
なんだかもう、バレるとか、もっとちゅうしたいとか、離れないととか、なんでちゅうしてくれたんだろうとか。
そんなことしか考えられない。

それに、ビルとビルの間という風が一切入らない個所にいるせいで、馬鹿みたいに蒸し暑い。
まるでサウナだ。

幹人さんの濡れた唇に目が行ってしまって頭の回転は鳩並みだし。幹人さんの顔が、15センチくらいしか離れてないから、今なら簡単にキス出来そうだし。いや、違うそうじゃなくて、幹人さんはオレに質問してるんだぞ。今すぐ答えないと。煩悩を今すぐ断ち切るんだ敦。

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