秘密コウサク
6
幹人さんのしなだれる攻撃からようやく解放され(オレの理性がなんとか欲望に打ち勝った)、目尻を指で拭う様子をドキドキしながらついつい上から下まで眺めた。
先ほどからうすうす感じてはいたけれど、格好いい。
幹人さんの私服姿が、非常に格好いい。
格好いい以前にお洒落だ。
シンプルなブイネックティーシャツに、チェックのちのパン。手首に巻きついた太めの腕時計がさり気ないアクセントとなっていて、お洒落なのにそれを主張させない。
オレの幹人さんが、いつも以上に格好いい。
そしてオレの、オレの……、
「オレの格好が輪を掛けてダサいッ」
パーカーをわしっと掴んで思わず嘆いた。
確かにありのままを見て欲しいとは思ったが、ありのままにもほどがあるだろう。
部屋着か。
今日、一応デートなのに。
「敦子? え、ダサいって、なに? どうしたの?」
「いや、あの、その」
状況が掴めずに目をパチクリさせる幹人さんを前にして、やっと我に返った。
オレ達の沈黙を蝉の鳴き声が繋ぐ。
やっちまった。
オレの服がダサいとか、どうでもいいのに。
なんかもう“いや別になんでも”とか言えない空気に……!
いつまでも沈黙を引っ張り続けるのもあれだと思って、「服」と呟くと、「うん?」と優しく首を傾げられた。
その仕草に胸が心地よく締め付けられる。
「今日、デート楽しみだったからさ」
「うん」
「昨日、服。頑張って、選んでて」
「うん」
「でもなんか、幹人さん格好良すぎじゃん。オレ、全然、なんか……釣り合ってない」
「……」
頭の整理が着かないながらも、なんとか自分の気持ちを振り絞りきる。
返事のない幹人さんに不安になって見上げると、さっきまでの熱心な顔がポカンとしていた。
うわあああ……!
やっぱり無理にでも“いや別に”って言っとけばよかった!
「幹人さんごめん今のナシ! どうか忘れて下さい! オレ、……幹人さん?」
弁解するうちに幹人さんの顔がじわじわ赤くなって、気がついたらまた幹人さんの腕の中にいた。
「もう、どうして君は」
「……へ?」
首を反らして顔を見ようとするも、耳しか見えない。
俺はハッとしてその耳を凝視した。
ビックリするくらい、赤い。
これは、まさか、照れてる? なんだそれ、可愛い。可愛すぎる……!
こんな可愛い人がオレの恋人なのかと思うともう辛抱ならなくなって、ぎゅーっと抱きしめた。
すると、「う゛ぇっ」とマジで吐血しそうな声を出されて、慌てて腕を緩める。
幹人さん、と呼びかけると目が合った。
何て顔してるんだ。
赤面して、悩ましげに目を細めて、なんていうか、そう。
堪らないって表情だ。
「好きだよ」
「!!」
「それに、敦子の服可愛いと思う。ダボッてしてて。でも、服以上に敦子がすごく可愛い」
「な、な、な」
「今のままでも十分可愛いと思うけど、気になるなら今日のデートはお買いものにしようか」
「……ハイ」
じゃあ行こう。
そう手を握られれば、頭がふわふわしたオレはついて行く他ない。
好きだって。
可愛いって。
オレもだよって言いたかったのに、なんだろうか、この喉に小骨が刺さっているような感覚は。
飲み込み方がわからなくて、まあいっかと足を早めた。
せっかくの幹人さんとのデート。楽しまなきゃ損だ。
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