秘密コウサク
5
そして翌日。
約束の日である水曜日。
天気は晴れ。
気温35度。
悩みに悩んで、結局半袖のパーカーにジーパン、それからパステルカラーのスニーカーという、無難すぎる服装に落ち着いてしまった。
女の子的な要素ゼロ。
まあ、元々男のオレがそれを求めようとしたのがそもそもの間違いだったのだ。
幹人さんにはありのままのオレを見てもらうしかない。
偽ろうとするからあんな目に遭うのだ。
待ち合わせ場所の駅前広場に着くと、既に幹人さんの姿があった。
オレは急いで駆け寄った。
「ごめん幹人さん! あの、待った?」
やや息を弾ませて、時計塔に寄りかかる幹人さんを見上げると、クスリと笑われた。
「まだ時間じゃないし、走らなくても大丈夫だったのに」
「いや、そこ気にしないで。なんか条件反射で走っちゃうから。幹人さん見たら」
幹人さんの瞳が数度瞬いて、溶けそうに微笑んだ。
頭を撫でられて、そのまま引き寄せられる。
「あんまり可愛いこと言わないで」
耳元で甘く囁かれる。
「みみみ幹人さん!? ま、周り、人!」
広場に行き交う人達の視線がチクチクと刺さっている気がして、オレはカチコチになった。
が、カチコチになったオレは瞬く間に解放される。
えぇ! もう離しちゃうの!? なんて軽くショックを受けていると、ピタリと額に手を当てられた。
熱でも計るかのような仕草にオレの首が傾く。
「幹人さん?」
「熱はないみたいだけど。敦子、風邪ひいた?」
心配そうに眉を寄せられる。
「風邪? 全然元気だけど、なんで?」
「声が掠れてる」
そう言われて、試しにあー、と声を出してみる。
確かに、言われてみれば。
昨日もほぼ全裸だったとは言え、風邪はひいてないはずだ。
だって毎年夏場はパンイチだし。
もちろん家限定で。
とはいえ、なんとなくだが関節を中心に体中に痛みを伴っているような気がしないでもない。
あ、そう言えば。
「オレ、昨日ちょっと叫んだから、そのせいかも」
「叫んだ!? なにかあったの?」
驚く幹人さんに、昨夜のめくるめく愛の折檻が否応なく思い出される。
「……逆十字固めとか、ジャイアントスイングとかかけられて。姉ちゃんに」
はははと掠れた笑いを漏らすと、幹人さんはぶっと吹き出した。
「ちょっ、本当死にそうだったんだって! 姉ちゃんはガチで殺しにかかるから、そんな笑えるレベルじゃないんだって! “今日こそアッちゃんを血祭りにしてくれる”とか言ってくるしッ!」
「ははは! 違っ……くくっ、そ、じゃなくて」
「じゃあなに!?」
「流石敦子のお姉さんだなと思っ……ははははっ駄目だぁっツボに……!」
「わ! 幹人さん!?」
しなだれかかった幹人さんに動揺するオレ。
耳元でクスクス小さく笑われて、吐息が耳朶を掠める。
うわあああ、お、落ち着けオレ! オレの理性頑張れ幹人さん好きなら頑張れッ!!
理性フル動員のオレを余所に。
目尻に涙が浮かぶくらいひとしきり笑って頬を赤くした幹人さんは、「ちょっと見てみたかったかも」と零した。
幹人さんにならコブラツイスト決められてもいいかも、と思ったオレはマジでどMかもしれない。
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