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恋愛戦争-セカンドステージ- 紫月様の3万ヒットフリリク小説です☆




「麓介ーーー。ここわかんないー」
「んー?どこだよ。うわっこの問題懐かしい…。えーとそこは…」
「ふんふん…。あっなるほどー!流石麓介っ頭いいーっ」
「うわっ!ちょっ…いちいち抱きつくなっ」



グシャッ!…ボトボトボトボト。



先程から聞こえる会話に軽い苛立ちを覚えたハデスは、夕食の準備をしていて「さて次はじゃがいもを切ろうかな…」と手に持ったじゃがいもを無残な姿に粉砕させた。
これはこれで切る手間が省けた…と喜ぶべきだろうか。
(んなわけないだろ)


ここ1ヶ月間の週末、いつもコレだった。
初めて麓介の甥っ子という嶺に会って、嶺の策略により家に泊めることになって。
それは、あの日だけのことではなく、あれ以来毎週末嶺はあれやこれやと理由を付けて、家に遊びに来るようになった。…しかもしっかりと泊まりの準備も持って。
お互い平日は仕事と学業で忙しく、麓介はバイト等で更に帰りが遅い時もある。
朝は勿論二人でまったりと過ごす時間などあるはずがないし、夜も夜で晩ご飯を食べてお風呂を入って明日の準備やらをすればあっという間に寝る時間だ。
それだから、休日が二人でゆっくりと過ごせる幸せな時間になる…はずだというのに。


それなのに、嶺は土曜日の朝から…たまに、というよりほぼ金曜日の夜からやってきて、大体日曜日の夜まで居座る。
…これでは、麓介との時間などとれるわけがなかった。
嶺はあの通り、麓介に「勉強教えて」だの「ゲームしたい」だの言ってベッタリ。
とてもじゃないが入り込める空気などなく、いつも麓介と二人で行っていた買い物もハデス一人で行く羽目になっている。


(…本来、僕がいるはずなのに。麓介の隣には)


同居…というより同棲し始めた頃は、それはもう密かに夢見ていた新婚さんのような一日を繰り返していたというのに。
二人で家事をしたり。二人で食事をしたり。二人でどこかに遊びに行ったり。二人で……甘く蕩けるような時間を過ごしたり。


今ではそれが夢まぼろしだったかのようで…ハデスはガクリと肩を落とした。

「…逸人さん。お肉焦げてる」
「へ?え?わわっ!」

声をかけられて、慌ててコンロを見ると。
焼いていた豚のステーキが少し黒くなっていてそこから焦げ臭いにおいを放っていた。
こんなにおいにも気付かないなんて…!と思いながら急いで火を消し、これ以上焼けてしまわないようにと素早く皿にうつした。

「って…麓介…?」
「ん」

ハデスが皿をテーブルに置いたのを見計らって、麓介はきゅっと後ろからハデスに抱きついた。

「あ、あの…?」
「…嶺なら…風呂に行かせたから。俺も一緒に入ろうって言われたけど…断った」

あぁなるほど。と納得していると、ハデスは麓介に服の裾を握られて体を反転させられた。

「んっ…」

ちゅっと唇にあたたかなものが触れる。それが麓介の唇だと気づくのは容易い。
ちゅっちゅっと角度を変えながらキスされながら、小さく開かれた唇は麓介からの魅惑の誘い。
久しぶりのキスだけでくらくらと眩暈を起こしながら…ハデスはその誘いを素直に受けた。

「ん…っふ、ぅ…」

麓介の小さな舌を自分のものと絡める。
少しざらざらとした表面が擦れ合う感覚がたまらない。
すりすりと頬を親指で撫ぜながら、蜂蜜の如く甘い麓介の唾液を求めて夢中で貪っていると、同時に麓介の呼吸まで奪っていたようで苦しくなった麓介にドンドンと肩を叩かれた。

「…ごめんね…?」
「ん…俺こそごめん…」

麓介と目が合う。久しぶりに視線が絡み合う。
麓介の目はたっぷりと濡れていてそしてゆらゆら揺れていて、目元は赤く色づいている。

…それは紛れもなく、欲情を表していた。

「俺…こんなこと言ったら逸人さんに嫌われるかな…?…本当は嶺を帰らせたくてたまんない」
「麓介…?」
「逸人さんが…足りないんだ」

買い物にだって行けてない。全然喋ってない。それから…全然触れてない。
そう言いながら麓介はハデスの存在を確かめるように、ハデスの胸に頭を当ててすりすりと擦り寄った。

「…僕も、すっごい麓介不足だよ」
「んっ」
「さっきだってね…?抱きつかれてたんでしょ…?すごくイライラした」
「うわっ…!せんせ…?」
「先生じゃないよ。名前で呼んで」
「いっ…逸人さん…」

ぎゅっと強く抱き締められて、驚いてつい昔の学校にいた頃の癖が出る。
それを指摘されて、麓介は心臓をバクバクとさせながら、改めてハデスを呼んだ。

「麓介…今日、嶺くんが寝付いたら…僕の部屋においで?」
「えっ…」
「そもそも君のお部屋のベッドは、あってないようなもののはずだったからね」
「い、逸人さん…」

そう。麓介の部屋のベッドは『一応あるもの』だった。
普段は、翌日に持ち越すような喧嘩でもしない限り、ハデスのベッドでハデスと麓介はふたりで寝ているからだ。
ハデスの体格からシングルはしんどい、という名目でダブルベッドを買って。
これだけで十分なのだが、建前で麓介の部屋にもベッドを入れていた。
…そして、嶺が泊まりに来るたび、麓介の部屋のベッドは活躍する羽目になっている。
しかも、ハデスにとっては最悪なことに、そのベッドは二人分の体重を支えていた。
言わずもがな、麓介と嶺を。

「平日の夜には…無理はさせられないからね…」
「え…?」
「君が寝付くのを待つのも大変なんだよ?」

にこりと微笑むハデスを見て、麓介の心臓はバクバクと煩くなる。
確かに平日の夜は、二人でハデスのベッドで眠るけれど。
いつも麓介が先にベッドに入ってハデスを待っているけれど、ハデスはなんやかんやと理由をつけてなかなかベッドに入らず、結局麓介は先に眠ってしまい気が付いたら朝を迎えている。
朝は朝で麓介が目を覚ます頃にはハデスはとっくに起きていて朝ご飯の準備をしているのだ。

「なんだそれっ!」
「ふふ。ふらふらで大学には行かせられないからね」
「〜〜〜〜〜っ、ばかっ!」
「ふふ…キス、してもいい?」
「…ほんと、あんた…ばか…」

恥ずかしそうに顔を赤らめながら、麓介の目がゆっくりと閉じられる。
震えながらキスを待つ麓介に優しく触れながら、もう一度キスしようと顔を近づけた。
瞬間。



「…なにしてんの?」



びくぅっ!と麓介の体が大げさに跳ね上がる。
ぐききき…とロボットのような動きで声のする方を振り返れば、当然ながら風呂上がりの嶺がそこに立っていた。


「み、み…みみ…」
「なにって…麓介にキスしようとしてたんだけど?」
「………」
「いっ逸人さん!?」
「あまり見られると、ただでさえ麓介は照れ屋さんなのにもっと恥ずかしがるから…出てってくれるかな…?」
「……………」
ハデスのあまりに凛とした姿勢に思わずうっとりしつつ、その言動に驚きを隠せない。
麓介はただただ口をぱくぱくさせるしかなかった。
「…一緒に住む理由をどう言ったのか知らないけど…とりあえず、『そんな関係』だってことは言ってないよね?少なくとも父さんが許すと思えない」
「そうだね」
「俺が家にチクったら、その時点であんたは終わりだと思うけど?」「そうだろうね。…でも君にそれができるかい?」
「……なに?」
ハデスはにっこりと笑って、麓介を抱き締める。
「僕達は愛し合ってるんだ。麓介が君と同じ年の時からね。確かにこの『同棲』に行きつくためには君のご家族にも本当のことが言えなかったけど…」
「………」
「確かに君がご家族に話せば、すぐさま麓介はおうちに帰ることになるんだろうね。でもそれで君は平気かい?」
「何言ってんの…?」
「麓介はおうちに帰ってきてくれるだろうけど…嫌われても知らないよ?」
「はぁ?」
嶺は素っ頓狂な声をあげて、麓介も大きく目を見開いてぱちぱち瞬きをした。
「家に帰ってきてくれるけど一生大好きなお兄さんに口をきいてもらえないようになるのと、たまには会えて勉強教えてもらえたり遊んでもらえるのと…君はどっちを選ぶ?」
「は…はぁぁぁああ?」
何言ってんだよ本当に!と嶺はぎゃんぎゃんと騒ぎ出す。
あまりにハデスが余裕の表情を浮かべているので、嶺は苛立ちを覚えずにはいられなかった。
そして更に。
「えっと…逸人さん…?」
「麓介は僕と離れても平気…?」
「や、やだ…」
「僕と会えなくなっても、いい?」
「やだ…やだってば…!」

ハデスにそう言われた麓介はもう泣き出す一歩手前まできていた。
じわりと麓介の目元が光る。

「ストップ!もうわかったから!わざと麓介泣かせるようなこと言うな!」

完敗だ。
嶺は盛大に溜め息を吐いて、ずるずるとその場にへたりこんだ。

「……………父さんはどうか知らないけど…少なくとも俺は、麓介達が付き合ってるの…麓介が中2の時から知ってる」
「へ?え?」
「俺は生まれた時から麓介が好きだったのに!こーんな奴にとられるなんて…悔しい!だから邪魔してやろうと毎週遊びに来たし…今だっていちゃつこうとしてるのを邪魔しようとしただけなのに…」

まさかハデスにこんな風に返されるなんて思わなかった、と嶺はギリギリと歯軋りをした。

「…麓介が悲しむ姿見たくないし、嫌われたくないから黙っててやるよ…。でも!」
「ん?んんっ!?」
「!?」

ずかずかと嶺が豪快な足取りで近づいてきて、そして麓介は両頬をがっしりと捕まえられると、約20秒間キスされた。

「んーーーーーーーーーーーーっ!!??…ぶはっ!」
「口止め料。ただし、これだけじゃ駄目だから。定期的に口止め料もらいにくるから」
「へ?ふ?え?は?」
「…今日はもう帰る。そういえば俺明日友達と遊ぶ約束あったから」
「み…嶺…?」

麓介はただただ唖然とするばかりで、ハデスと嶺はバチバチと火花を散らしあっている。
もう何が何だかわからなかった。

「それでも俺、負けないから。絶対麓介は俺のものにするから」
「へ……?へぇ?」
「ならないよ。麓介は僕のだから」
「えっ、えっ」

これは喜んでいいのか、戸惑ったらいいのか。
逃げ場がない。ならば、逃げ場を作るのみ。

「い…逸人さん…」
「ん?どうしたの?」
「……お、俺…お腹空いたなぁー…とか…」
「うん。僕も早く君を食べたくて仕方ないよ」
「……………え。」

にっこりと笑うハデスの裏側は。
麓介にもどうにかできるものではなかった。
たっぷり空気を吸い込んで、一気にそれを吐き出す。

「………嶺」
「……なに…?」
「帰れ」
「…………はい」

嶺は自分達が付き合っていることをずっと前から知っているようだが、ハデスのこの頑固さや意地の悪さまでは知らなかっただろう。
白旗を上げるしかなかった嶺は素直に頷くと、後ずさるように歩いて、部屋を出て行くとバタンとドアを閉めた。
どうやら今日は眠れそうにない。
これはもしかすると…嶺が帰ったことを後悔するかもしれない。
でも、早く触れられたくてたまらない、と叫ぶ自分もいる。
麓介は覚悟を決めて、GOサインを出すかのようにハデスにキスをした。



本日の戦いの勝者は。
圧勝で派出須逸人。











[2011.11.02]

紫月様より
3万hitフリリク祭の小説をいただきました!!夏緒さまの藤くんの甥っ子、嶺くんネタのお話です。
ハデス先生→藤くん←嶺くん
きゃっ(≧∇≦)
紫月様の藤くんは可愛くていじらしくて堪らないです!!

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