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とびきり甘いキスをして







アメリカから帰ってきた日、
アシタバの家で美作とシンヤに会った。

久々に懐かしい顔ぶれに昔話をして笑い合ったり、
皆の近況を聞いて驚いたり、

高校生になってからもよくつるんでた奴らだったから、
実際離れていたのは一年にもならないけど、
それでも慣れない外国で生活していた俺には、ほっとできる時間だった。



「藤、お前マジで俺ん家泊まるのかよ?」


帰り道で、隣を歩く美作が尋ねる。


「冗談だって。俺、用事あるし。」


「用事って、こんな時間から‥まさか!」


はっとした顔で立ち止まる美作に

「変な想像すんな。」


呆れた顔でそう言うと、
じゃあまた明日な
と言ってさっさと別れた。






歩き慣れた道。

細い路地を曲がる。


毎週のようにここを通っていた。



やがて見えてくる白いアパート。




「なんか、すげぇ久々な感じ。」


カンカンと階段を上がると目的の部屋の前に着く。


インターフォンを押そうと手を伸ばすと中からガチャ、と音がした。




「‥よう。」


「いらっしゃい。藤くん。」



以前と変わらない、ハデスの姿があった。









「お家には連絡した?」


「した。今日は友達ん家泊まるって。」



相変わらず物が少ない狭い部屋。

すすめられるまま馴染みの座布団に座る。


「今日くらいお家に帰った方が良かったんじゃない?皆さん寂しがるよ。」


「大丈夫だって。明日にはちゃんと帰るよ。やりたい事もちゃんと話す。」


「そうだね。」



俺がアメリカに紫藤の支店を出したいと思った時に一番に話したのはハデスだった。

俺のやりたい事、
話を聞いて、
後押ししてくれた。


「‥ぁりがとう。」


「どうしたの?急に。」


「先生が俺の事、応援するって言ってくんなかったら、多分決められなかったからさ。」


アメリカで頑張る
という事は会えない日が続くという事で、


そもそも留学を決めた時にも、
婚約が嫌で、
ハデスと決して別れない、
別れたくないと誓って、
あえて遠距離での付き合いを選んだ。


俺の家が紫藤じゃ無かったら、
なんて
何回考えたか分からないくらい迷ったけど、

けれど必ずハデスは優しく微笑んで俺を受け止めてくれた。

俺のそのままが好きだと何度も言ってくれた。




「決めたのは藤くん自身だよ。お家を大切にする君の思いが決めたんだ。」



そう言ってやっぱり優しく微笑むハデス。


「でも、驚いたよ。ついこの間まで保健室のベッドでサボってばかりだった藤くんが、こんなにも大人になるなんて。」


「いつまでもガキじゃねぇよ。」


「ふふ、本当だね。」


すっ、とハデスの手が伸びて俺の頬に触れる。


「‥本当に。大人になった。」


すり、と頬を撫でながら愛おしそうに俺を見るハデス。

急に心がざわざわと落ち着かなくなるのを感じた。


「そりゃ、背も、伸びたし。」


「うん。」


「まだ、アンタよりは低いけど‥。」


「うん。」



じっ、と金色の瞳に見つめられて目を逸らす事ができない。


「綺麗になったね。」


「なっ!!」


「昔から君は綺麗だったけど、もっと、綺麗になった。」


「お、とこに綺麗とか、言うな、」


顔が暑くなってくる。
絶対真っ赤になってるだろう。
どうしてコイツはそういう恥ずかしい事を恥ずかしげも無く言うんだろう。



「キスしても良いかな?」


「っっ!!いちいち聞くなよ!そんな事っ!!」


「ふ、ごめん。」



そっともう片方の頬にもハデスの手が添えられて、


暖かくて
優しい感触が
唇にそっと触れた。







「キスしやすくなったね。」


「馬鹿。」



懐かしい甘い感覚。
柔らかく包み込まれるような優しさ。


心地良いハデスの両腕の中で
抱きしめられて
昔に戻ったみたいに暖かい気持ちになった。

目を閉じてその温もりに浸っていると
俺の頭を撫でていたハデスが何かに気付いた様で、


「そういえば、まだ言って無かったね。」


「何を?」


俺はすぐ上にあるハデスの顔を見上げる。




「おかえりなさい。藤くん。」






とびきり甘く微笑むハデス。


昔からいつだって

この人は優しく俺に微笑むんだ。


だってその笑顔に俺は惚れたんだから。




「ただいま。先生。」








大好きの気持ちを込めて
優しく
甘く
くちづけあった。


















ハデス先生の笑顔が好きです。

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あきゅろす。
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