005万華鏡(光) あれはいつだったか覚えてないけど、多分小学校低学年の頃。 学活か何かで、秋也のクラスが万華鏡を作っていた。 私と慶時は、下校中それをかわりばんこに覗きながら、 「「秋也すげー!」」 と声をそろえた記憶がある。 秋也はちょっと自慢げな顔をしていた気がする。 でも、どうだったろう、やっぱりよく覚えてないや。 「名前、何見てるの?」 光子の声。 私は古い記憶からふっと我に返る。 そうだった、学校の帰り、光子と街に来てたんだ……。 光子は私の視線の先にあった筒状のそれ――万華鏡を手にとり、しげしげと眺めた。 「欲しいの?」 そう問われて私は、返答に迷う。 欲しいのか、欲しくないのか。 ちょっと考えてから、私は、 「見てただけ」 と言った。 「そう」 光子は持っていた万華鏡を興味無さげにをもとあった場所に返し、 「あっちに名前にぴったりのスカートがあるのよ」 と私の手を引いた。 私は振り返って万華鏡を一瞥したが、すぐに視線を引き剥がし、光子についてその場を後にした。 うすれゆく万華鏡の記憶 忘れたことも忘れてく |