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040時にあきらめも肝心(三)


さて、俺は数学と英語以外の成績はお世辞にもいいとは言えない。

しかし、だ。
俺は自分の頭の作りは悪くないと思っている。むしろ、回転は早い方だろう。勉強だって、ちゃんとやればそれなりの結果がついてくるのさ。

というわけで、今日は政経、古典、数学。まあ、この信史様が勉強してやろうじゃないの。

と思っていた矢先。

「三村、勉強してんの?」

出席順で席についていた俺に、背後からかかる綺麗な声。
広げていた古典のノートから視線を上げてそちらを振り向けば、少し眠そうな君。

「テスト直前に勉強しない奴がいるのかい?」

俺がわざとらしく訊けば、名前はそれもそうだと言いたげに肩をすくめて、それから机に広げられているノートに目をやる。

「古典かぁ」

俺としてはあんな大昔の雅やかな貴族が何をしてようがどうでもいいのだけれど、それが成績を決めるのだから話は別。

「三村、古典得意?」

「知らないのか?俺は理系だ」

俺の脇に立つ彼女を見上げるようにしながら溜め息混じりにそう言うと、彼女はにやりと笑みを浮かべながら「じゃあさ、」と俺にある提案をした。

「もう勉強やめて一緒に追試受けようよ」

彼女が浮かべている笑顔の具合いとか、その口調から、名前はそれを冗談のつもりで言っているのが理解できた。
しかし、その追試を受けるという不名誉な冗談でさえ、彼女の口からこぼれると輝きを放つから不思議なわけで。
しかし、その申し出を受けてしまいたい衝動をおしやって、俺はすました顔で言う。

「名前は文系だろ?」
ニヤリと笑って続ける。
「古典に引っ掛かるとは思えないな」

「それもそうだね」

「何だ、自信ありか?」

俺がそう問うと、彼女はうつ向いてうーん、と短く唸ったが、すぐにこちらに悪戯っぽい視線を投げた。
「勝負する?負けたら、おごりで」

俺は肩をすくめた。
文系の彼女と勝負などして勝てるとは思えない。
微かな望みに賭けてあらかた勉強し終えた古典をもう一度復習するか、さっさと政経に移るか。

俺は少し思案してから古典のノートのページを繰り、今回の範囲の頭まで戻る。
名前との時間を得られるなら異存は無いさ。
それに俺は、女性の誘いは断らない。

俺は「いいぜ」と笑った。



勇気が無いなら時にあきらめも肝心だと嘆いていればいい

ただし、やるなら徹底的にだ。
負け戦は趣味じゃないんでね。



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