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034誉れ(秋)


昨日のことだった、数人のバスケ部員が信史とケラケラ笑いながら会話をしていた。
風にのって俺の耳に入ってきたのは、「苗字さん、可愛いよな」という、隣の隣のクラスの男子の声。

「あ、俺も思ってた」
「へー。どの子?」
「ん、あそこの。黒髪の」
「ほー!」
「だろー!」

自分の幼馴染みが可愛いと言われているのだから、それはきっと喜ぶべきことなのだろうけれど、いやでも素直に喜べるわけないだろう。
というか三村も何にこにこ話を聴いているんだ、あーいや、別に言論は自由だけれども。

そんな風に葛藤する秋也の意識の先で、沈黙を決め込んでいた信史が颯爽と発言する。

「何だ山野、狙ってんのか?」
「んー、そうだけど」

どくん、と一回大きく跳ねた秋也の心臓。
三村、なんて事実を発掘してんだよ。

「別に止めないが参考までに言っとくとだな、名前は重度の鈍感だぞ」
「全然問題ねぇよ」
「そうか。だが、彼女は既に予約ありだぜ」
「はァ?三村、それを先に言え!」

ああ、悪いな。と悪びれることなく告げながら、信史はちょっとだけ視線を泳がせた。一瞬、ほんの一瞬だけ秋也と目が合った。気がした。
その瞳が悪戯っぽい光をたたえていたのを、秋也は見逃さなかった。



秋也は、自分の視線の先でクラスメイトの女子と他愛のない会話でにこにこと笑顔を振り撒いている幼馴染みを凝視して、はぁ、と盛大な溜め息をついた。

あそこのケーキは美味しい。とか、最近ちょっと太った。とか、女の子らしい話題が、断片的に耳に入る。
彼女が決して自分に持ちかけることがないであろう会話。

その会話の内容もだが、秋也が気になるのはその振り撒かれている笑顔。
今彼女の近くにいるのは女子だが、常にそうだとは限らない。

――嗚呼、一体どうして自分はこんなに心配性になってしまったのだろう。
名前が誰と話し誰と笑おうが、自分にそれを強制する権利は無いのに。

そんなことを考えてから、秋也はもう一度溜め息をついた。



誉れ高き、その

これが恋だ。とか
言ってみたりして



あきゅろす。
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