032帰るための方法(秋) 真夏の青空と白雲を見つめながら歩いていると、どこまでも行ける気がしていた。 疲れなんか忘れて、嫌なことなんか全部忘れて、どこか遠くへ行ってしまえる気がしていた。 「それで、私、迷子になったの」 けろりとした顔で幼少の頃の思い出を語る名前は、少し長い独白を終えて小さく肩をすくめた。 それを聴いていた秋也は「そんな、危ないじゃんか……」と絶句していた。 成程、幼稚園かそこらの年齢の幼女(しかも幼馴染み)が一人で遠出をしたことは、彼にとって酷く有り得ないことらしい。 「大丈夫だよ、」 心配そうな秋也を見て、名前は鮮やかに笑う。 「もう高校生だし」 「いや、でも……」 秋也はちょっとだけ唇を尖らせて言った。 「名前、天然だから。やっぱり心配だよ」 「え、私天然じゃないよ」 「天然だよ」 「だったら、秋也も天然でしょ?」 「俺のどこが天然なんだよ?」 「……全部?」 「だったら、名前も全部天然だよ」 「なにそれー」 「名前だって、なにそれー」 「なにそれって、何が?」 「何がって、……何が?」 「………」 「………」 「あれ?」 「うん」 暫くの沈黙。 そして、どちらからともなく、二人の間に笑いが弾けた。 迷子とか、天然とか、解決できてない話題はたくさんあったけど、とりあえず、二人は幸せなのだろう。 こんなにも眩しい日々があるから、 青い空も白い雲も、今の私には魅力的じゃないの。 泣きながら帰るための方法を模索することも、もう無いでしょう 私をこんなにも釘付けにする、眩しい日々! |