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025ホットミルク(慶)


「あのさ、秋也どこ行ったか知らない?」

お昼休みに言いたいことがあるから空けといてって言われてたんだけど、肝心の秋也がいないんだよね。

そう慶時に尋ねると、彼は一緒にお弁当を食べていた三村や瀬戸、杉村と顔を見合わせて、ニヤリと笑った。

なに?何かおかしいの?
状況の分からない私をよそに、彼らは話を進めていく。
「逃げたか」と三村。
「逃げたね」と瀬戸。
「逃げたな」と杉村。
は?何が逃げたの?

「何か知ってるの?」
と私が再度尋ねると、三村がニヤニヤ笑いながら「いや、それは七原から直接聞けよ」と意地の悪いことを言う。
だから、その秋也が行方不明だから困っているのに。話の通じない人だ。

私のその思いが顔に出ていたのだろうか、すこし間を置いて杉村が
「屋上あたりにいるんじゃないか?」
と気のきく助言をしてくれた。

私が「屋上かぁ」と口の中で小さく呟くと、卵焼きを口に運ぼうとしていた慶時が
「校舎裏だと思う」
と箸を止めて進言した。

校舎裏、ねぇ。
でも杉村の言う通り屋上の線も捨て難い。

私が悩んでいると、瀬戸が元気よくこう言った。
「音楽室かもよ!」

「生徒指導室だろ」
三村もなにやら自信ありげに教えてくれる。

屋上、校舎裏、音楽室、生徒指導室……あー、余計に分からなくなった。
もういいや。

「みんなありがとう。私、校舎裏行ってみる」

やっぱり、なんだかんだでこの面子の中で一番秋也のことが分かるのは慶時だと思う。
二人は、なんて言うか雰囲気が似てるなって思うことが多々あるし。
……だから、私も幼馴染みなんだけど、ちょっと入りづらいなって思うことがあるのは秘密の話なんだけど。まぁ、今はそんなことはどうでもいい。

私はぱたぱたと足音をたてながら教室をあとにしようとした。

「名前!」

びっくりした。
私の名前を読んだ声自体はそんなに大きくはなかったんだけど、この声は慶時のものだったから。彼の出す声にしては、かなり大きな声だった。

ぱっと振り返って、なあに?と尋ねると、慶時は
「がんばれ」
と言ってにっこり笑ってくれた。いつもの優しい笑顔。

私は「うん。ありがとう」と言って、そのまま今度は振り返らずに校舎裏へと向かった。

何だか、心が軽くなった気がした。



できたてのホットミルクみたいに心に染みわたる

あたたかい心とか、やさしい眼差しとか。



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