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022触れる(秋)


おかしな光景だと思った。

机に突っ伏して眠っている沼井の背後に、名前が立っていた。

いや、立っているまでは別に普通なんだけど、俺が普通じゃないと感じたのは、名前がただ立ってるだけじゃなかったから。
名前は寝ている沼井の背後に立って、その背中にそっと右手を伸ばしていたのだ。

俺の脳内に疑問符が浮かんだのは刹那。
既に次の瞬間には名前のそばに歩みより、声をかけてしまっていた。

「何してるんだい?」

俺は平静を装って言った。

すると名前は勢いよく俺の方に首をひねった。
大きく開いた目。驚きの表情。

俺がもう一度「何してるんだい?」と尋ねると、
彼女は少し慌てたように「なんでもないよ、なんでも」と言った。

いや、なんでもないわけないだろ。
普通ならなんでもないのにそんなことしないだろ。というか、しないでくれ。

俺が疑いの眼差しを向けると、は少し困惑しながらも言葉をつむいでくれた。

「沼井充のね、背中にね」
そこで名前は一度言葉を切って、ホントに言わなきゃだめ?と言いたそうに視線だけで俺を見上げた。

俺は続きを聞きたかったので、続けるよう視線で促した(上目使いは惜しかったが)。
すると名前は諦めたように溜め息を一つついてから、こう言った。

「沼井充の背中にゴミ付いてるから、とってあげようと思って」

さらりと言った。
ごくごく普通に、そう言った。

……ゴミ?
今度は俺が驚く番だった。

「え、ホントにそれだけ?」

「ちょっと秋也、騒いだら奴が起きる」

静かにするよう俺に釘をさし、名前は再び沼井の背中に手を伸ばす。

名前の手が沼井のブレザーに触れそうになった瞬間、俺の中を稲妻に似た感情が走り抜けた。

何かを考える暇はなかった。
ただ本能に任せて、俺は名前よりも早く右手を伸ばし、例のゴミをはたき落とした。

「え」と言う名前の今まさに伸ばしかけていた手を引いて、素早くその場を離れる。

「秋也、なに?」
とたどたどしく言う名前の後ろの方、さっきまで俺たちがいた場所から、自分を叩き起こした犯人を探す不機嫌そうな声が聞こえてきた。



誰がお前なんかに彼女に触れる権利をやるもんか。

余裕ないな、俺。



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