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018手を握っていて(光)


「寒いわね」

まだ雪には早いけど。
まだ息は白くないけど。

「うん。寒いね」

太陽を覆い隠す厚い雲は寒がる私たちを見下ろして、きっと楽しんでいるのだろう。
私はセーターの袖を伸ばして、両手を覆う。うん、少し暖かくなった。

初冬の乾いた風が吹いて、バス待ちの私と光子の髪を揺らしていく。……寒い。

「手袋してこようかな」
私は前髪を直しながら、ぼそっと呟いた。

「私は先にマフラー」
私の独り言に応えるように、光子が話をふる。
光子は風に乱された髪を直してから、ブレザーのポケットに両手を差し込んだ。

私はその様子をしっかりと見届けてから、「光子も先に手袋なんじゃない?」と言いながら、ポケットの上から光子の両手に触れる。
ポケットに手を入れるのはね、手が寒い何よりの証拠だよ。
私がそう言うと、光子は「私、手袋嫌い」と言い放って、ポケットから両手をさっと出した。

その両手の爪が綺麗なピンク色に輝いているのがふと目に入って、私は思い出した、
そういえば光子、ネイルが崩れるから手袋嫌いなんだっけ。

勢いで出したものの、やはり光子の両手はぐんぐん冷えていくようで、光子は両手を無意識的に擦り合わせて暖めようとしていた。
そんな彼女の口元にうすい微笑みが形作られていたのを、私ははっきりと見た。

私は以前、光子に冬の間はマニキュアをやめて手袋をしたらどうかと言ったことがある。
しかし、光子は決して首を縦に振らなかった。薄く微笑んで「仕事があるから」と、ほとんど言葉を押し出すように、私に言ったのだたった。
私は光子に寒い思いをさせてまで彼女を「仕事」に向かわせる環境を恨めしく思った。それと同時に、あんなに力なく微笑む光子になんと言葉をかけてよいのか迷っている自分が情けなかったし、いやでもやっぱり光子の意思は尊重するべきだからと、光子と向き合うことから逃げようとしている自分がとても腹立たしく、許せなかったのを覚えている。

その時の光子の力ない微笑みが、今、彼女がたたえている微笑とそっくりで。

私の胸がチクリと痛んだ。

私はまた何と言っていいか分からない。私はまた何も言えない。

一瞬の沈黙が訪れて、
私はばっと光子の手をとった。
他にどうしていいのか思い付かなかったけれど、何もしないよりはマシだろうと思ったから。

「え、ちょ、なあに?」

光子が笑いの混じった声で私に問いかける。
私の急な且つ妙な行動に拍子抜けな様子。

私は光子の冷たくなった手を握りながら、「何でもないよ」とだけ答えた。

また私はうまいことは言えなかったけれど、繋がれた手を見つめる光子の顔から寂しげな影がなくなったから、まあよしとしよう。

お互いに手を擦り合わせながらバスを待っていた時間はそんなに長くはなかったのだろうけれど、
それはとても満ち足りた時間だった。



手袋をしてくるのはやめよう。
手を握り合っていれば、こんなにもあたたかいのだから。



初冬の風にさらされた手を握っていて思ったこと

手袋いらずの冬が来た!



あきゅろす。
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