夜雀の唄・2

「政宗殿、いくらなんでも、うぶっ」
「読んでろよ、読みてぇんだろ」
不満を露わに起き上ろうとしてきた幸村の顔に、文庫を押し付けてもう一度倒す。開いている部分からして、まだ序章が終わった頃か。
こっちもまだまだ序章だ、お互いに好きなことやってりゃいいじゃねえか。
幸村が起き上ってこないうちに、シャツを胸の上まで引き上げてやり、晒された乳首に唇を寄せる。既に指で弄っていたせいで、そこは少し色づいて存在を主張している。
よく日に焼けた肌に、どこか不釣り合いな色だった。でこぼこの縁やへこんだ先端を舌でなぞれば、幸村の腰は簡単に跳ね上がる。
その隙に、先程邪魔された場所へ再度侵入を試みる。既にずれ落ちつつあったズボンを下着ごと引き下ろして、陰毛の下で膨らみつつある肉に手を伸ばす。
「んぅう……っ、ふ、うぅ……っ!」
頭上から、必死に堪える幸村の声が聞こえる。いっそ声を出しちまえばいいのに、と思うが、それは言ってやらない。俺は黙っていればいいんだろ?
幸村の陰茎は少し扱くだけであっという間に勃ち上がった。若いもんだ。羨ましい気もするが、俺だって幸村相手ならいくらでも勃つから、俺もまだ若いんだろうな。
一端体を浮かせて、少し下へずらして再度降ろす。幸村の喘ぎに合わせて揺れるその先端にちゅっと口づけて、そのまま口の中へ銜え込んだ。
「ひぃっ、ぃあ、あ……っ、ま、政宗殿……っ!」
驚いた幸村の裏返った悲鳴と共に、顔の横の足がばたついて抵抗してくる。暴れんじゃねえよ、鬱陶しい。両手でがっちり抑え込んで、更に陰茎を喉の奥に咥えていく。
幸村はフェラに抵抗があるらしい。俺がしてくれって言ったときは渋々してくれるけど、自分のものを俺がしてやるのは凄く遠慮する。嫌がってるわけじゃないみたいだが、そんなに拒否られると傷つくぜ、と言うぐらい首を横に振る。
単に恥ずかしいのか、気持ち良すぎて怖いのか。今こうして咥えてる反応を見る限りでは、どっちも当てはまっているのかもしれない。
「あ、ぅう……ぁ、あつうござるぅ……っ、政宗殿の、舌が、ぁ……っ」
声はでろでろに溶けて、譫言みてぇに俺の名前を呼んでくる。いいな、どんどん可愛くなってきた。
いつもの活発な幸村も好きだが、俺の前でだけ見せる淫猥な顔の幸村も好きだ。俺が汚してるんだ、という下らねぇ支配感が俺自身の欲を煽ってくる。
裏筋を舌で撫でて、喉の奥でくびれを締め付ける。俺も男のものを咥える日が来るなんて思いもしなかったが、これで幸村が泣いて善がってくれるんなら別にいい。
「はぅ、うぅ……っ、で、出てしまいまする……っ、口を、政宗殿、口を、離してくださ…‥っ」
限界を訴えて幸村がもがき始めたが、足を拘束してるんだから大した邪魔にはならない。俺の口の中に出すのが抵抗あるみてぇだが、別に構いやしない。
犬みてぇにくんくん鳴き出す幸村の顔を見てやれないのは残念だが仕方ない。苦しいのを堪えて思い切り銜え込んで吸い上げると、口の中の肉が一瞬膨れ上がるのが分かった。
「ぁあ、は……あ、あぁ……で、出て、しま……」
脱力した声に合わせて、喉の奥にどくどくと精液が吐き出される。うっかりするとえづきそうになるから、慎重に少しずつ口から引き抜いていく。芯を失くした陰茎の先端が口から離れて、俺の口とを白い糸がどろりと繋いでいる。
やっと顔が上げられた。幸村の方を見てみると、開いた文庫で顔を隠すようにしていて、顔半分が見えない。んだよ、ここまで来てまだ本を離さねぇのか。
可愛い鳴き声聞けたからもういいか、と思ったが、もうちょいいじめてやる。だらりと垂れさがる陰茎の下、袋の更に下を晒すように足を抱えて押し上げて、そこに舌を這わせる。
普通なら絶対に触れない部分だから、慣れない感触も一入だろう。性器みたいに柔らかい肌を吸って舐めていれば、陰茎は再び熱を持って勃起しつつあった。
そのままもっと下へ、と思っていると、
「……っぅ、う……ふ、ぅう……」
喘ぎとは違う声が聞こえて、顔を離した。足を降ろしてやっても、自由になった体は何の抵抗もしない。
「ぅ、ぐ……っ、ふく……」
体を起こして見下ろせば、本からはみ出ている口元が堪えるように引き結ばれているのが見えた。肩が嗚咽に合わせて揺れて、いつもより小さく頼りなく見える。
……やりすぎたか。
さっきまで思いっきりいじめてやろうと思っていたのに、一瞬で棘が抜け落ちた。
表紙を持つ手から、ゆっくりと本を奪い取る。晒された顔は涙にまみれて、情けない顔でこっちを見上げている。
「……ん、政宗、殿……」
未だ喉がつっかえているみたいだ。涙混じりの声で名前を呼ばれると、じわじわと罪悪感が湧き上がる。
手にした本は、放り投げるようにして床に落とす。空いた手で濡れた眦をそっと拭ってやると、幸村の手がそれを引き留めるように添えられた。
「申し訳ありませぬ、政宗殿……」
潤んだ目のままで、幸村が呟く。何でお前が謝るんだ。酷いことしたのは俺の方だってのに。
「本を、いただけたことが嬉しくて、ついそちらばかり……せっかく、政宗殿とお会いできる日だというのに、某は自分のしたいことを優先させて……」
ごめんなさい、と掠れた声で幸村が詫びた。
ちくしょう。何でそんなに素直に謝るんだよ。何で、お前が許しを請うて俺を見るんだ。
こういうとき、こいつの目が疎ましい。大きな目に映る俺は、随分ひどい奴に見えているに違いない。
俺がちょっと、いやかなり、自分の本に嫉妬してたことも、全て綺麗に映し出してきやがる。幸村自身はそれに気づいていないことが、余計にむかつく。
むかつくのは俺自身にだ。
「……ごめんな」
一言だけ呟くのも、俺にはかなり頑張りが必要だ。普段誰にも頭を下げないし、誰にも詫びることなんかない。それで許されなくてもいいと思っているからだ。
それが唯一通用しないのが、今俺の目の前にいる、泣き顔の年下の男。
情けない、恥ずかしい、馬鹿馬鹿しい、くだらない。脳内にそんな言葉が渦巻くが、それより何より、今幸村の涙を止めることの方が先決だし、重要だ。
幸村は俺の言葉を聞いて少し驚いたみたいだった。やがてゆっくりと腕を持ち上げて、無言で俺を呼び寄せる。
乞われるがまま体を降ろすと、ゆるりと首の裏に腕が巻きついて来る。
「悪いのは某でござる。政宗殿が謝ることなど……政宗殿の、お声が聞きとうござる」
自分が言った言葉と、俺が意地で言い返した言葉が、未だにこびりついているんだろう。俺を見上げる大きな目は、不安そうに揺れている。
そんな顔しないでくれ。俺が悪かったよ。俺は小さい男だ、本一つでこんなにこいつを困らせて。
「幸村」
いつものように、素直な気持ちのままで名前を呼ぶ。途端に、幸村の目元は嬉しそうに綻んでいく。
その表情の変化が嬉しくて、思うまま頬だの目元だの額だのに唇を落とした。ちゅ、と音を立てると、幸村が擽ったそうに顔を顰めるが嫌だとは言わない。
やっと、俺のやりたいことが叶ったな。
「政宗殿……その、さ、最後まで、していただけますか……?」
顔を離すと、幸村が顔を赤くしてそんなことをねだってきた。その顔は反則だ。
「やめろって言われても、最後までやるつもりだったけどな」
そう返すと、幸村はもっと顔を赤くして俯く。そのままぼそっと、言いませぬ、と呟いたのが聞こえた。
双方合意を得たんだ。今更遠慮もいらねえな。再開の合図として、緩みきった唇を遠慮なく塞いで舌を絡め取った。唾液と共に混じり合う吐息の熱に、俺の中の欲もぞくぞくしてくる。
一度口を離して、呼吸を荒げる幸村の唇に指二本を添えると、意図が伝わったのかその指をゆっくりと飲み込んでいく。熱を孕む舌を遊ぶように指を揺らして、口内に溢れる唾液を指に絡めていく。
「ふ、むぅ……んぅ、く……」
指をゆっくりと抜き差しすると、夢中で指をしゃぶる幸村が吐息に混じった声を零す。引き抜くと名残惜しげに舌が絡まって、再び潤んできた目がうっとりと指を追いかける。もう待ちきれないって顔だ。
それを指摘して笑ってやるのもいいが、そうすればその顔はすぐにしかめっ面に変わっちまう。勿体ないので、何も言わずにその顔を堪能しながら指を移動させた。
先程吐き出した陰茎は再び張り詰めて、充血した裏筋を見せつけてくる。その奥の孔に濡れた指を這わせてゆっくりこじ開け、少しずつ慣らしていく。
もう何度もしてきたことだ。幸村はいつも慣れないと言うし、この孔も慣れて緩くなることはない。本来とは異なる用途に使うのだからそれも当然か。
幸村は苦しげに口を強張らせていたが、少しずつ内壁が緩んできたことで指が奥へと進めば、やがて苦痛ではない喘ぎが混じり始めた。
ちょっと強引に奥まで押し込んで、指を上へ向けてぐっと折り曲げる。ここが幸村の泣き所だ、少し擦るだけで途端に悲鳴を上げることはもはや記憶済みだ。
「はう、ぁあ……っ!ま、政宗、ど……ひぅ、そこ、そこぁ……っ!」
容赦なくぐりぐりと弄ってやれば、とろけた舌を必死に動かして幸村が許しを請うてくる。さっきと違って、こっちのは気分がいいから不思議だ。許してやるどころか、もっといじめてやりたくなる。
「このままもう一回出すか?」
言葉は優しく、指はそのまま弄り続けて尋ねてやれば、幸村は口を引き結んでぶんぶんと首を横に振る。
「い、ぁ……ふぅ、政宗殿も、一緒が、……」
どろどろの顔でそんなことを言われれば、俺だってもう我慢できない。口元だけで笑って、指を引き抜く。そのまま自身のズボンもずらして、膨らんだ陰茎を引き出した。
幸村のものと合わせて擦ってやれば、先走りの汁がまとわりついて互いの肉が淫靡に照らされる。ぬるつく陰茎を孔に宛がって、そのまま腰を押し出していく。
「ぅあ、あ……!ふぐぅ、うう……っ!」
苦しそうな声と共に、幸村の体が引き攣るのが分かる。挿入される側の負担は俺には分からねえが、相当辛いんだろうな。それを強いている俺は酷い奴だし、それでも受け入れてくれる幸村の健気さが愛しい。
「ほら、入った。大丈夫か」
最後まで押し込んで、幸村に覆いかぶさって様子を確かめる。息も絶え絶えと言った様子だが、俺が見下ろしていることに気付いて幸村は少し微笑んだ。
何事だ、と思うより先に、また腕が伸びてきて頭を引き寄せられる。されるがまま身を近づけると、震える唇をそっと押し付けられた。
子供が遊び半分でしてくるような、稚拙なキスだ。たったそれだけで幸村は恥ずかしそうに笑っている。こんなもんのどこが恥ずかしいんだ。くそ、何で俺が顔赤くしてんだ。
三十路も近いっつーのに、こんなキスで照れるなんてな。
「っ、あぅうっ!い、いきなり、揺らさないでくだ……ぁあっ!」
「もう我慢できねぇっての。最後までついてこいよ……!」
誤魔化しに思いっきり腰を打ち付けて、幸村の体が大きく跳ねるのを見て溜飲を下げる。一度動けば、もう気遣いとか遠慮とかは考えられなくなる。もともと考えるつもりもなかったけどな。
ソファの狭い座面の上でやってるから、幸村が悶える度に体が落ちそうになって危なっかしい。腰を押し付けて体を屈めてやると、深い部分を抉られた幸村が引き攣るような悲鳴を上げる。
「今、この辺まで来てるだろ」
そう言って幸村の締まった腹筋を掌で押さえてやると、中に含んだものを余計に感じるのか、幸村が慌ててその手を止めようとする。
引きはがされるのは抵抗せず、そのまま浮いた手を傍の陰茎へ絡みつかせる。汁を垂らして揺れるそれをぐしゅぐしゅ擦ってやれば、中の締め付けの強弱に変化が起きて面白い。
「はひ、ひぃあ、あ……も、もう、政宗殿、だめ、またぁ、出てしまいますぅ……っ!」
閉じられない口元に手を翳して、幸村が呂律の回らない口調で絶頂を告げてくる。俺もそろそろ限界だ、ちょうどいい。
膝を立てて幸村の腰を大きく浮かせて、殆ど真上から陰茎を抜き差しする。先ほどより更に深いところに届くらしく、幸村の目はもはや焦点が合っていない。
「ふぁあっ、ふ、かいぃ……っ!あぅ、あ……ぁあっ、まさ、む……っ」
最後はもはや言葉にすらなっていなかった。目の前にいる俺の名前を必死に呼んでるみてえだけど、それが俺の名前だってことを理解できているかも分からない。
「ぃああっ、はぁあ……!」
力なく揺さぶられていた足が反り返り、陰茎がぶるりと震えて精を吐き出した。乱れた胸元にぼたぼたと落ちるそれが非常に淫靡で、少し遅れて俺も中で果てる。
ぶくぶく、と脈打つように精を吐き出す肉棒に合わせて、銜え込む内壁も収縮していく。まるで貪欲に精を飲み込もうとしているかのようで、どちらが食われているのか分からなくなる。
治まったところでゆっくり引き抜くと、栓を失った孔からとろとろと白濁が零れ出した。こんなに出してたのか、と少し恥ずかしくなった。




適当に後始末をした後、俺も幸村もぐったりと疲れていたため、そのままソファに寝転がっていた。
俺の胸の上に、幸村の頭が乗っている。苦しいがこの体勢を望んだのは俺だ。
暫くお互いに無言だったが、やがて幸村がぼそりと呟く。
「本……少し汚してしまいました」
まだ本のことを言うか、と少しむっとしたが、今となっちゃどうでもいい。
「汚したって、何で」
「……某の、涙と、汗と」
言いにくそうにぶつぶつと答える声を聴いて、ちょっと考えた。ああつまり、あのときに顔に押し付けてたからってことか。
「別にいいだろ、破れたとか読めなくなったわけじゃねえんだし」
俺としては慰めるつもりで言ってやったのに、幸村は不服そうに顔を上げた。
「政宗殿から頂いた本ですぞ!しかも、発売前の貴重な見本誌を!己の不手際で汚してしまうなどと……」
その言い分に、俺はちょっとびっくりした。何だ、つまり。
「俺がやった本だから気にしてんのか?」
「政宗殿が、というより……政宗殿の本だから、ということです」
当然でござる、と幸村は真面目な顔で言ってきた。俺がきょとんとしているのも訳が分からないらしく、不思議そうにこっちを見つめ返してくる。
大きな目をじっと見ていると、少しずつ頭がすっきりしてくる。何だ、そうか。お前が熱心に読んでたのは、俺の本だからなのか。
今更そんなことに気が付いて、俺は急に自分の馬鹿さ加減に可笑しくなってきた。へらへら笑いだした俺を見て、幸村は更に不思議そうな顔をしている。
「何を笑っておいでか」
「馬鹿だなぁって思って」
誰が、とは言わずにおいた。だって情けねえじゃねえか、自分が馬鹿だって気付いただなんて。
幸村は案の定、自分が馬鹿だと言われたと思ったみたいで、何事か反論しようとしてきた。けどその前に、もう一度胸元に抱き込んでその口を強引に塞いでしまう。
俺の腕から抜け出した幸村が、むっとした顔でこっちを睨む。今はその顔すら可愛いと思えるんだから、やっぱり俺は相当馬鹿なんだな、としみじみ思った。






《終》

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Cigarette〜の設定が気に入ったのでもう一回なんか書いてみたかったんでござる。
筆頭一人称に挑戦してみたけどいまいちよく分からんことに。



あきゅろす。
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