はっぴーはろうぃん!
悟空の第二子出産発言から数十日が経った。
悟空は頻繁に私を呼び付けて地獄の様子を尋ねていた。
地獄へ落ちたら戻れないというのは悟空にも適用されるらしく、唯一行き来出来る私に尋ねているらしい。
いちいち天界まで来るのは面倒この上ないけど、そのおかげで知り合いが増えたのも事実だ。
「やあ、なまえじゃないか」
この人もその一人。
テディヤーナ、なんて言いにくい名前の人だが、私はテディさんと呼んでいる。
南の銀河出身の人で、なんかすっごい美形の人。
「テディさん、お久し振りです」
「ああ、二十日振りくらいかな?」
「そうですね、ここ数日は地獄に籠っていたので」
「おや、どうして?」
「あんまりにも悟空が呼び出すので、面倒になって。でも今日は可哀相なんで、来てあげました」
「大変だねえ」
テディさんは苦笑しても美形だ。
しかもテディさんの顔は彼の星では中の下とか言うらしい。どんな美形星なんだろ。
ところで、とテディさんは両手をだしてすんごい笑顔で私に言った。
「trick or treat?」
「え、と、鳥?」
「あはは、違うよ。とりっく、おあ、とりーと。僕の星の昔の言葉で、"お菓子をくれなきゃいたずらするぞ"って意味なんだ」
彼の星ではハロウィン、と言うらしいそのお祭りのことをテディさんは話してくれた。
「多分この時期だったと思うんだけどね、子供たちがいろんな格好をして街を練り歩いて、道行く大人達にさっきみたいに言うんだ。まあ、大抵の大人は知ってるからちゃんとお菓子を持ってるんだけど」
「もってないと悪戯されるんですね」
うん、だからなまえはいたずらだね、なんてテディさんは言って、私の頬にキスをした。
「ふーんキス……ってええ!? キス? なんでキス? いたずらってキスなんですか!?」
「くすくす、違うよ。悪戯はなんでもいいんだよ」
まさかしたことよりも驚かれるとは思わなかったけど、とテディさんは苦笑した。
いやだって超美形が私にキスってなんかギャグでしょってああ何いってんの私!
「嬉しいね、なまえにそういってもらえると」
「あああんまりやってるとキス魔って言われちゃいますからね!」「……なまえだけなんだけどな」
「え? 何か言いました?」
「ううん、なにも。さあ、お友達に試して来るんだろ? ああ、でもその前に……」
「?」
数分後、私は地獄の受付に立っていた。
さあ、まずは誰に試そうか。
――大漁。ほくほく。
期待通り、ギニュー特選隊の人以外はお菓子なんてものを持っていなかった。
バーダックさんやラディッツさんたちサイヤンはそれぞれ顔に落書きさせてもらった。
フリーザさんとセルには二人合わせて相思相愛なんて書いてみた。二人はすごく気分が悪そうだったけど。
まあそんなわけで他にもリボンを付けてみたり女装させてみたりして、私は満足顔で地獄を後にしようとしていた。
「あー楽しんだ。今日はもう帰……ん?」
受付に出来ている人だかり。もしかしなくてもあれは……。
『なまえ! とりっくおあとりーと!』
私がいたずらした全員が立っていて、手を差し出し満面の笑みで叫んだ。
少しびっくりして固まってしまったけど、私はポケットからキャンディを取り出すとみんなの手に置いた。
キャンディはテディさんにもらったものだ。どうせこうなるだろうから、と。
一方で私がお菓子を持っていたのが予想外だったのか、誰だ私がお菓子を持ってないって言ったのは、という議論が始まっていて、みんなは一斉にセルの方をみた。
「ふん、貴様等が勝手に都合のいいように勘違いしただけだろう。私はなまえは手ぶらだったと言っただけだ」
キャンディをコロコロしながら言っても全然説得力がない。
全員がかりでボコられているセルを尻目に、私はお礼を言うためにもう一度天界へと向かった。
ハッピーハロウィン!
(地獄の奴等だけにイイ思いなんてさせないよ)
(え? なにか?)
(なーんにも!)
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