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空が飛べたら地獄へ行こう




 今日は、空の飛び方を教えてもらうことにした。
 突然思いついたわけじゃない。前々から飛べたら便利だろうな、とは思っていた。
 空を飛べたら、わざわざ鬼さんたちに送り迎えを頼むこともなくなるし。

 そんなわけで、私は唯一空を飛べる知り合いのいる地獄へ(それも悲しい話だが)来たのだ。



 空が飛べたら地獄へ行こう





 最初は、いつもように針山に突き刺さって呻き声をあげているセルに尋ねてみた。

「空の飛び方? そんなもの覚えなくても私が……」

 教えてくれる気すらないようなので却下した。

 セルを見てフリーザさんやターレスさんも同じ事を言い出しそうな気がして却下だ。

 ギニュー特選隊の人やバーダックさんなら教えてくれるかもしれない。

 ――とはいえ、私は他の悪人さんたちがどこで罰を受けているか知らない。
 地獄は広い。一日かけて歩き回って一人見つけられるかどうかも怪しいも――


 なんだ、何が起こった。

 私はその瞬間、何かぬるりとしたものに足を滑らせ、何か水っぽいものの中に落ちた。


 水っぽいものは粘りで私に纏わりつく。


 足掻いてももがいても、体は浮くどころか沈むばかりで、口の中も水っぽいものでいっぱいだ。
 そこで漸く、水っぽいものが血であると気付いた。私は血の池に落ちたのだ。

 苦しくて、でも死んでいるから気を失うわけでもなく、ただもがくしかない私の体を、何かが引っ張りあげるのを感じた。

「――はあっ!」
 咳込む私の頭の上から、「何をやっているんだ!」と言う怒鳴り声が聞こえた。

 呼吸を落ち着けて顔を上げると、そこには怒ったザーボンさんの顔。
 今まで血の池に入っていたのか、血まみれだ。

「わざわざ罰を受けに来た訳でもないだろう? どうして一人でふらつくんだ!」
「……ごめんなさい」

 他人事みたいに、もう地獄へは来れなくなるのかな、とか本当に苦しかった、とか考えていると、ザーボンさんの溜め息が聞こえた。

「……本当に、心臓が止まるかと思っ」
「もう止まってるだろ」

「五月蠅いドドリア」

 ザーボンさんの後ろから出て来たドドリアさんは、ザーボンさんの肩に手を置いて言った。(お互い血まみれだ)

「なまえよ、ザーボンも怒ってる訳じゃねえよ」
「いくらお前が良い奴で、私たちがいると言っても、ここは地獄だ。危険な場所だ」
「一人で出歩いてたら、今回みたいなこともあるかも知れねえし、他の悪人どもに襲われかねねえんだぜ?」
「フリーザ様でも私たちでもギニュー達でもいい。ここへ来る時は誰かと一緒にいなさい」
「――うん。ごめんなさい」

 いい子だ、とザーボンさんは私の頭を撫でた。(そういえば私も血まみれだ)


「ところで、どうして一人でふらついてたんだ?」

 ああ、そうだ。空の飛び方を教えてもらいに来たんだった。


「空の飛び方?」
「だって覚えたら、自分で帰ったり出来るし、こんなこともなくなるかなって」
「……」

 ザーボンさんとドドリアさんは二人顔を見合わせると、もう小一時間待ってくれ、と言ってまた血の池の中に入っていってしまった。
 あの苦しい中に、まだ一時間もいるのかと思うと、可哀相だと思う反面、やっぱり二人も悪人だったんだなとなんだかしみじみした。
 そんな悪人たちと楽しく過ごす私って一体――。


「――ォニ! 今日の罰の時間は終わりだオニ!」

 いつの間にか寝てしまっていた。
 赤鬼の大声とけたたましく鳴る鐘の音で目を覚ました。

「ところでなまえさんはどうするオニ? 閻魔大王様が心配してたオニ」

 ああ、そういえば今日は何も言わずに来てしまった。
「今日は泊まります。ご迷惑お掛けします」
「了解しましたオニ」

 赤鬼が去るのと入れ違いに、ザーボンさんとドドリアさんが血の池から出て来た。
 二人ともくたくただ。

「だ、大丈夫ですか?」
「大、丈夫、だったら、罰にならないだろ……ゲホッ」

 大量に血を飲んだのか、二人とも咳き込みながら血を吐き出している。


「き、今日はもう休んだ方がいいんじゃ」
「そんなこと言ってたら毎日無理だぞ」
 ドドリアさんが深呼吸して立ち上がった。もう一呼吸おいてザーボンさんも。

「さあ、あの丘へ行ってやろう」
「はい!」






その後、三日ほどかかったが、何とか浮くくらいは出来るようになった。
 もうあとは自分で練習するだけだから、危ないここではなくて天界でやれ、とドドリアさんに言われた。

「本当にありがとうございました」
「いや、いいんだ」


 ザーボンさんの顔は真っ赤で、ドドリアさんはお礼を言われることに慣れてないんだよ、と言った。

「ちゃんと飛べるようになるまではここに来るなよ」

 そう手を振った二人は、また自分の受けるべき罰へ向かって行った。






空を飛べたら地獄へ行こう
(いちいちフォロー入れるドドリアさんっておかあさんみたい!)








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