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天国のち地獄時々閻魔サマ2



 落ちている真下が針山だという最悪な状況の中、私は意外と落ち着いていた。
 もう既に死んでいる、ということもあるし何より、

「――あれ誰、というか何?」

 多分このまま行ったら刺さるであろう針には先客がいて、それに気を取られていた。
 落ちたらあの人(人?)を下敷きにしてしまうな、とか、やっぱり刺さったら痛いのかな、とか考えていると、セミが動いた。

「畜生、体に穴が開いてしまっ……ん?」

 生きてた(死んでるけど)んだ、あの人……

「ごめんなさいそこの緑のセミ! 出来れば受け止めてェェェエ!」

 あ、しまった。セミとか言っちゃった!
 やばい刺さる……!

 目を思い切り瞑ったけれど、刺さったような痛みはなかった。


 死ぬと痛覚も麻痺するのかと馬鹿なことを考えながら目を開けると、緑のセミは刺さっていた名残である腹の風穴を開けたまま私を受け止めていた。
 風穴から出る血が私の服に染みていくのが分かったけど、助けてもらった手前気持ち悪がるわけにもいかない。

「ああ、すまないな、血が染みてしまった」
「いいいいいえ! こちらこそいきなり落ちて来た上セミ……なん、て?」


 ん?
 この顔どこかで……
「私はセル。美しい貴女の名前は?」

 セル来た!

「あー、なまえ、地球人です」
「地球人? それでは私の事は?」
「知ってます。今日死んでセルゲームが終わるまで閻魔サマと拝見させていただきました」
「おや、お恥ずかしい。私の無様な姿を見られたというわけかね」

 ――あれ?
 こいつ、本当にセル?

 テレビで見た時は、人々の悲鳴を聞いて微笑し、軍を虫けらのように排除したセルは極悪人に見えた。
 目の前のセルと名乗った男はまるで肉親を見るような目で私を見ているじゃないか。
「どうした、私に見惚れていたか?」
「いいえ全然」
「そこは即答なのだな」

 今度は傷ついたような目で私を見た。
 こいつ、意外と表情豊かだ……。


「ところでなまえ、お前はどうしてここに? もしや私が殺してしまったか?」
「えあ、いえ違いますけど……」

 私はいままでの経緯を説明した。





「ふむ、孫悟空にな……あの時のかめはめ波か」

 セルによれば、私が死んだ時に見たあの光の玉(Mr.サタンがトリックだとかほざいたあれだ)の名は、かめはめ波、というらしい。どこの大王だ。
「まあ、それで死んだわけです」
「しかし、孫悟空の仲間どもはドラゴンボールを使うのではないか?」


「ええ、それなんですけど、多分、セルに殺されたものを生き返らせてくれって願うと思うんです」
「――ああ、そういうことか」
「そういうことです。なので代わりに、あの世を自由に行き来出来る許可をいただきました」
「それで危険を冒してまで私に会いに来た、と」
「ええ……ん?」

 何か違ってないか!?

 いつの間にか塞がっている風穴のあった腹から視線をずらしてセルの顔を見れば、何故かほのかに頬が赤い。

 やばい、こいつ何か勘違いしている!

「あの、わたくし決してあなたに会いに来たわけでは」
「照れなくても良い。誰にも私たちの邪魔は出来んからな!」
「お願い離してェェェ――!」

 宙に浮いたセルと私は愛の逃避行をしてたまるかと、私は殴る蹴るの抵抗を続けた。
 しかしそんな私の抵抗空しく、私はセルの家(檻?)に連れて行かれたのだった。

悪人と言えど、意外と良い人なのかもしれない、と目の前の人々を見て思った。
 セルの家(牢か)には、他の悪人さん達がたくさんいた。

 先刻も思ったが、人間、根っからの悪人というものはいないのだ。きっと。
 地獄にいる、ということで少し警戒していたが、紹介されたのはみんなとても気さくで楽しい人たちばかりだった。

 宇宙人なのを除けば、だが。

「まあ死んだらみんなここにくるんだ、今更宇宙人云々で気にする事もねえだろ」

 にか、と笑ったのはラディッツさん。
 私を殺した……いや、そうとしか紹介できないだけで怨んだりはしてないけど……孫悟空の兄なんだそうだ。似てない。
 それで、しかも隣りにいる孫悟空そっくりのバンダナさんは、バーダックさんと言って彼らの父だそうだ。

 親子揃って地獄だなんて……いつか孫悟空も地獄行きになるんじゃないかと心配した。
 世界を救ったのに地獄行きでは自分が救われない。


『おいなまえ、大丈夫か? とりあえず上がってきなさい』
「あ、はい……」


 みんなも私を見て、また来いよ、と言ってくれた。
 地獄も案外いい所かもしれない、と、迎えに来てくれた鬼さんの車の中で思った。





天国のち地獄時々閻魔サマ
(来羅さん、鬼の仕事やる気はないオニか?)
(勘弁!)






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