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突発
金属歯車夢その2

 気づいたら、知らない土地にいた。


 最悪なことに、直前まで何をしていたかも思い出せない。
 思い出せるのは、自分の名前と、私は日本の生まれだってことと、声を大にしていいたいのは。

「小さっ」

 私はこんな幼児ではなかった、ということだ。

 夢ではないか、と頭が投げかけるが、違う、と即座に声が出た。
 いつの間に転んだのか、血のにじむ膝は痛みを訴えていた。
 体とともに、表に出る感情までも幼児化したらしく、頭ではそんな大それた怪我ではないとわかっているのに、私の大きな泣き声をとめることはできなかった。

 動くに動けない。
 目の前に迫る車のライトを見て、ああ終わった、と思った。


















 はい私。元気です。状況を整理します。

 私は今ある男の車に乗っていて、私はこの男を知っている。
 今の今までこれっぽっちも思い出せなかったというのに、この男を見た瞬間、私はこの世界を理解した。

 男の名はオタコン。本名、ハル・エメリッヒ。
 この人はゲームの中の人物のはずだ。実在していたというのか。いや、テクノロジー的に無理がある。
 私がこの世界にトリップでもしたというのか。
 私が必死でそんなことを考えている間、オタコンは私が周辺の孤児院から抜け出した子供と思ったのか、(そのあたりは孤児院が集中している場所だったらしい)いくつもの孤児院を回った後、あるマンション(廃ビル?)にたどり着いた。

「ごめんね、本当はちゃんと家にかえしてあげられてらよかったんだけど」
「……ここは、どこ?」
「僕の友人の家だ。多分まだ寝てると思うから、おきたらその人の言うことをちゃんと聞くんだよ」
「……うん」

 オタコンの友人……もしや。

「めがねのお兄ちゃんがよろしく言っていた、と伝えてくれるかい?」
「うん」

 そういうと、オタコンは私にぬいぐるみを渡した後、一人リビングに残して去っていった。
 そして、数時間後、私の目の前に現れたのは。

「……」

 案の定、ソリッド・スネーク……本名デイビット、だっだわけだ。



 向こうから声をかけるまで待つという手もあるが、どうやら目の前の伝説の傭兵はかなり混乱しているらしい。

「おじさん、だれ?」

 ここで名前を呼べばせっかくここまできたのがパアだ。
 この人はおそらくためらいもせず私に銃を向けるだろう。撃つかどうかは別として。
 こんな幼児が彼のコードネーム、あまつ本名まで知っているというのはかなり怪しい。私なら撃つ。

「……プリスキンだ。お嬢ちゃんはどうしてここに?」
「んーと」

 ああ、そういえばそんな名前も使っていたな。
 さあどうしたものか。この人はどんな答えを求めているのか。
 連れてこられた。言えば早いが、私に彼の反応を予測するなんて不可能だ。

「わかんない」
「誰かにつれてきてもらったのか?」
「うん。めがねのお兄ちゃん」
「めがね?」

 どうやら、うまくつながったらしい。
 彼は私にここで待っているよう告げるともと来た部屋に帰っていった。
 大方、オタコンへ連絡でもしているのだろう。私に聞かれたら困る内容か。まあたぶん私が幼児だからだろうが。

 私もいろいろ考えなくてはならない。
 彼に許しをいただいたので、牛乳でも飲みながら考えることにした。



 とにかく、私がトリップした、というのは変えがたい事実なわけだ。
 これからどうしたものか。トリップする直前の記憶がない以上、どうやってきたかもわからないし、もちろん帰り方もわからない。
 それにオタコンのことだ、かえしてあげたい、といったからには私のことを調べるだろう。
 私に戸籍があるだろうか?
 あればそれに越したことはないが、私の予想としては、ないだろう。
 この世界においての異端分子である私に、そんな親切な出来事があるとは思えない。
 とにかく、幼児であるだけよかったかもしれない。
 いくら彼らが死線を乗り越えてきて、ある程度の異常事態を予想しているとはいえ、幼児が敵、とは……思うかもしれない。

 とりあえず、お互い様子見、といったところであると思いたい。


 タイミングが良いことに、そこまで結論が出たところでスネークが戻って来た。

「……眼鏡のあいつから話は聞いた。お嬢ちゃん、本当に何も覚えてないのか?」

 何も、と言うことにしておくべきか。私はただの一般人だ(今は幼児だが)。下手に心理戦に持ち込めば、怪しまれる結果しかもたらさないだろう。

「……なまえ」
「ん?」
「わたしの、なまえ。なまえ」
「なまえ? 変わった名だ、東洋系か?」
「……」
「わからない、か」

 あのオタコンからの連絡の後、私に何か覚えてないかと尋ねるということは、本当になにも出てこなかったに違いない。
 どうしたものか。今がどんな時期かは知らないが、プリスキンの名が出ると言うことはビッグ・シェル事件以降だと言うことで、それは同時に、遅くとももうすぐ、かもう既に、フィランソロピーにはサニーがいる、ということを意味する。
 ただでさえ愛国者たちに狙われかねないサニーを保護する中で、私まで保護する余裕が彼らにはあるのか。
 頭がパンクしそうだ。泣けてきた。


 ――あ、やばい、泣く。
 本能が幼児化してたのを忘れていた。

 子供特有の甲高い泣き声がリビングに響く。
 この廃ビル全体に響き渡っているかもしれない。


「ど、どうした、親にでも会いたいのか?」
「あー、どうにもならん、どうしたらいい?」
「腹でも空いたのか?」


 目の前では急に泣き出した私を泣き止ませようと伝説の傭兵があたふたしている。
 私は根性で泣き声を止めると、しゃくりあげるまま話した。

「ごめ、なさ、ちがう」
「よしよし、ゆっくりでいい。落ち着いて話してみろ」
「わたし、わからな、なにも」
「ああ、分かってる。大丈夫だ、眼鏡のあいつが、親を見つけてくれるさ」
「ちが、むりなの、わたし、ちがうの、わからないの、助けて、おねが」


 ろれつが回らない。まどろっこしい!
 どんどん動かなくなる口は、疲れからくる眠気のせいだと気づいたのは瞼が完全に閉じてからだった。








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4沿いトリップ……夢がひろがりんぐ

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