会えねども聞けねども(スタフォアサルト) 初めて行ったバーで、あいつに会った。 まさか会うとは思わなかったし、戦闘機に乗っていないあいつはなんだか新鮮で驚いた。 あいつは逆にとにかく嫌そうな顔をしてた。 「なんてぇ日だ。嫌な顔見ちまった」 「そういわないでくれよ、ウルフ。今日は仕事してるわけじゃないんだ」 出て行こうとするウルフを引き止めた。 もうこんなゆっくり話せる機会なんてないかもしれない。 俺たちは敵同士だから。 「チッ……奢るならちったあ居てやるぜ」 「参ったな、飲み過ぎないでくれよ」 ウルフは最初から、俺が飲んだことないような強い酒を頼んだ。しかもなんだか高そうだ。 酒が出されると一気飲みするウルフ。見てるこっちが酔ってしまう。 沈黙が続いた。気まずい。 「あ、の」 「なんだ」 「その……みんな元気か? レオンとか……パンサーとか……」 「そんなことを聞きに引き止めたのか? 随分と高ぇ質問代だな?」 やばい、怒っただろうか。 本当はそんなこと聞くためじゃなかった。もちろん気にならないわけじゃなかったけど。 「……親父は、生きていると思うか?」 ウルフは思いにふけるように目を閉じた。 「……それこそ愚問だ。お前みたいなヒヨッコが倒せたアンドルフの野郎に、あのクソ狐が負けると思うか?」 「……」 「あン時の事なんて思い出させんな。裏切り者まで思い出しちまう」 裏切り者、ピグマ。 アンドルフに取り入り、ウルフたちを騙した。追い出された後はアパロイドの力に魅入られ逆に寄生され、俺達の手で殺された哀れな男。 彼の行動の根底には、金がいつも蠢いていた。 「本当なら俺が奴を殺すべきだった。追い出したとは言え、元々あいつを仲間に入れたのは俺だったからな」 「ウルフ……」 「クソ狐を陥れたのも奴だった」 「……ああ」 俺も見る目が落ちたな、とウルフが言った。 「俺が原因みてぇなもんだ……クソ狐の事も、奴の事も」 意外だった。ウルフが弱音を吐くなんて全然考えもしなかった。 俺の中でウルフは敵で、好敵手で、憧れで。きっと親父の中でも、彼は親友だったんじゃないかな、と俺は考えてた。 そんな、親父と同じくらい遠い所にいて強かったウルフが、弱音を吐いてた。 後悔するくらい、彼にとっても親父はデカい存在だったんだろう。 「まあ、だ」 ウルフは何杯目かの酒を飲み干して言った。 「あのクソ野郎は生きてる。会わなくたって声が聞けなくたって分かるだろう? お前なら」 「……そう、だな」 その後しばらくして、ウルフは出ていった。 「次に会う時は敵同士だ。俺がお前を殺す日まで死ぬんじゃねえぞ、フォックス」 「お前もな、ウルフ」 出て行くウルフの後ろ姿が、ちょっとだけ親父に見えた。 財布が寂しくなった日のこと。 【会えねども聞けねども】 ← |