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スーツに恋する水曜日(逆裁/ゴナ)


 時々、狂いそうなくらい、恋しくなる時がある。
 そんな日は恋しさと同じくらい苛々した気分が募って、周りに当たり散らすぼくはよっぽど大人気ない。そう思うともっといらいらした。


「ナルホドくん、今日は機嫌が悪いね」

「うん、ごめんね。あたってると思うけど」

「いいよ。あたしもそんな日はナルホドくんにあたってるし」

「そうなの?」
「うん」


 にっこりと笑う彼女を見たら、ほんの少しだけいらいらが和らいだ気がする。
 でもまあ、消えたわけじゃなくて、しばらくすればまたさっき以上のいらいらがぼくを襲う。

(……会いたい、なあ)


 彼がぼく以上に忙しいのは知っているし、それを放り投げてまでぼくに尽くしてくれなんてひっくり返っても言えない。(そうなったら嬉しいけど)


「あ〜」
「もう今日は閉めたらどうかな。どうせ誰もこないし」
「随分な決め付けだね」


 ああぼく、またあたってる。ごめん、真宵ちゃん。
 彼女はそんなぼくの心情を知ってか知らずか、さして気にしたふうでもなく来客の足音を聞き付けた。


「だってそうじゃない。あ、でも今日はやっぱり閉めない方がいいね。お客さんだよナルホドくん」


 がちゃ、と事務所の扉が開く。
 その人の姿が見えたら、今までのいらいらとか恋しさとか全部ぶっとんで、ぼくに残ったのは愛しさだけ。室内に広がるコーヒーの香りは、ぼくの安定剤だ。


「ゴドーさん!」

「クッ……どうした? コネコちゃん。大声出しちゃあ、近所迷惑だぜ」


 ぼくの機嫌の変化は端からみても明らかだったと思う。だって真宵ちゃんが笑ってる。


「あれ、あたしお邪魔?」
「やっぱり今日は閉めるよ、真宵ちゃん」
「ふふふ、そうだね。今日はお仕事にならなさそうだもん」


 まだ空は真っ青だ。








 ーツに恋する水曜日








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