戦前の逢瀬(時オカ)
いつも一人だった。
妖精がいないくらいで、と思ってた。
迷いの森でモンスターになったりしないし、森からでたらきっと死んでしまう。みんなと同じようにずっと子供だし、自分はコキリ族でしかないのに、妖精がいないくらいで何故、僕は独りぼっちなんだろう。思えば思うほど自分が惨めになって、切り株に腰掛けて一人泣いていた。
他の子供たちにこの姿を見られたら、またからかわれる。いつまでも泣いてはいられないから……
「妖精ぐらいで……なんなんだよっ! 僕だってコキリ族なのに!」
稀にしか他の子供が近付かない森の入口で、叫んだ。
外に向かって叫べば、ミドたちには間違っても聞こえない筈だから。
「──小僧」
ミドの取り巻きにでも聞かれてしまったのかと思った。タイミングが悪いとか謝ってしまおうかとか、頭をいろんな考えが巡ったが、一番大きかったのは恐怖だった。
振り向けない。目を合わせてしまったら最後なんじゃないか。
「……小僧、聞いているのか」
勢いよく振り向かされた。も目の前にあったのは想像していた緑じゃなくて、燃えるようなオレンジと褐色。
よくよく考えてみれば、子供にあんな低い声が出せるわけもないし、肩を掴んだ掌は暖かくて大きかった。
「え、あ、と……」
「小僧、コキリの森とやらはここか?」
褐色肌の男の人。子供ではなかったから、コキリ族ではないことは確かだったけれど、まだ外の世界を知らなかった自分にとって、新種の動物でも見たような気分になった。
「う、うん。この国に、森はここしかないって、デクの樹サマが言ってた」「デクの樹……」
男の人が何故デクの樹サマに反応したのか、その時は分からなかった。ただ、コキリ族ではない自分以外の人間が、自分に話しかけてくれていることにどうしようもなく嬉しさが込み上げた。
やはり、この種族以外にとって妖精の有無は関係ないのだ、と思うと、本当に嬉しかった。
「小僧、そのデクの樹サマとやらのところに案内しろ」
「あ……無理だよ。今、デクの樹サマには僕たちも会えないんだ。本当は、森に入って僕たちの村を真っ直ぐ抜ければ会えるけど……」
当時、デクの樹サマは黒い悪夢がやってくるから、誰も自分近付かないようにと言っていた。当然、ミドたちに黒い悪夢はお前だ、などと罵られるネタにもなったが。
「……そうか」
男の人はそう言うと去って行った。
後にそいつと生死を賭けた戦いをするなんて思っていなかった。
その時みえたガノンドロフの背中にたなびくマントが、戦の終わった今でもまだ目の前をちらちらする。
fin
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