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C:墜ちていく昼下がり



「まったく…」

彼の姿が目に入るや、苦笑が漏れた。

学生でありながらその論文が高く評価されている期待の新人、エルシャール・レイトン。

(だがたまに部屋を訪れると、こうだ。)

部屋の中はちらかり放題。

当の本人はというと、資料やら何やらに囲まれて真ん中のソファで眠っている。

「ふ、"期待の新人"が聞いて呆れるな。」

そう言って近付くも、本人はすやすやと気持ち良さそうに寝息を立てるばかりだ。

何とはなしに、その隣に腰を下ろした。

別に急ぐ用ではなかったしわざわざ起こすのは気が引ける。

「こんな所で寝ていては風邪をひくぞ、レイトン。」

言いながら肘で頭を小突くが、やはりうーん、と唸るだけで起きる気配はなかった。

ふいに悪戯心が出てきて、頬を人差し指で突いてみる。

思ったより柔らかいそれにくすくすと笑っていたのだが、





「んん…ぅ…」





少し唸った彼の声と吐息に、びくりと手を止めた。





(…何だ、今のは。)





何だか、どくどくと心臓がせわしない。

息を吸って落ち着いてから、もう一度そっと頬に触れてみる。

思ったより柔らかくて滑らかなそれを、さっきとは違って手の甲で撫でる。

するとまた、寝苦しそうにんん、と唸った。

まどろみの境の気怠げな吐息。

すり、と手に触れる柔らかな肌は思いのほか白く、薄く色づいた唇が際立って見える。

私は気が付けば、吸い込まれるように―――









――彼の唇に、キスをしていた。









「………っ!!!」

勢いよく顔を離すが、もう遅い。

バ、バカな!!

何をやっているのだ私は!!

触れたソコはじくじくと熱を持っている。

心臓はどくどくと脈を打って、下腹に熱が集まるのを感じた。

慌てた私は取るものもとりあえず、彼の部屋から飛び出していた。














「……まったく、どうしてくれるんだろうね。」

むくりと身体を起こすが、彼は当然いなかった。

(あれだけちょっかいを出されたら私だって起きるよ、クラーク。)

頬に触れる手の感触を思い出す。

その手つきは、友人に触れるにはあまりにも優し過ぎるものだった。

「それにしても……」

つつ、と唇に触れる。

そこには彼の唇の感触がまだ残っていた。



(…これじゃあ、論文が手につかなくなりそうだよ)



知らず、溜息をついた。


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