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N:空に落ちる(レイクレ)















(空に落ちる、)

(夢を見たんだ。)














気がつけば、私は星屑の海にいた。

(ここは、どこだろう。)

ぐるりと見渡すと、濃紺の空間でちかちかと星が瞬いていた。
身体はごおお、と風を受けて、心臓はひゅう、と縮むような変な感覚が永続的に続いている。
風のくる方に目をやると、青白い月が見えた。

(ああ、私は空に向かって落ちているのか。)

あまり回らない頭で、そんなことを考えた。
うまく考えられないのは、頭から真っ逆さまに落ちているから頭に血がのぼっているせいだろうかとか、そんなことも考えた。

おかしな話だが、空に落ちているという事はすとんと私の心におさまってしまって、それが当然であるようにさえ思えた。
ふと星に触れやしないかと手を伸ばしたが、すかすかと空を切って届く気配は一向になかった。
落ちていく自分に対してその光があまり動いて見えないのは、つまりそれだけ遠くにあるのだろう。

(誰も、いないのか。)

その空間にはただ自分だけが居るらしい。
深い深い藍色の空はずっと続いているようで、落ちていく身体のよるべない感覚や、途方もない孤独は、終わりがないように思える。
しかし不思議と恐ろしくはなかった。

(だって、この先に行けるなら、君が、)

君が居るかもしれない。
空よりももっと上に行けたら。
行くことが出来たなら。

そこまで考えると、ツンと目鼻が痛くなった。
同時に、ポツリ、ポツリと雨が降り出す。
それはみるみると勢いを増して、大雨になった。

少し冷たかったが、それよりも視界が霞んで空の向こう側が見えにくくなってしまった事が悲しかった。
悲しくなるほどに雨はますます勢いを増して、痛いほどに身体を打った。

(この雨は、どこに行くのだろうか。)

ふと、そんな事を考えた。
たとえば地面という受け皿があれば、雨は空に還ることができる。
では行き場のない雨は、どこかに溜まり続けるしかないのだろうか。
"なにか"が、壊れてしまう日まで。

(それでも、私は、)

この先に行きたい。
雨はもはや身体を刺すほどだったが、どうでも良かった。
ただただ、空の向こうへ、行けたなら、

























(ダメダメ!)

(私がいいって言うまで、取っちゃ駄目。)





















「―――――ッッ!!!!!」

ばさ、
と、音を立てて跳ね起きた。
深い闇夜のなかで、はあ、はあ、自分の荒い息と、心臓が騒ぐ音がうるさい。
手は自分に掛けられていた布団を力一杯握りしめていて、小刻みに震えていた。

「……――、―、…」

声を出したつもりだったのだが、喉がひりついてうまく言葉が出なかった。
息がひゅうひゅういう音と、うぅ、とかアァ、とか声にもならない音が聞こえただけだ。
その拍子にぽた、布団の上に涙が落ちるのが見えて、それが自分のものだと気づくのにしばらくかかった。
ぼろぼろと目から溢れているそれは、さっきの雨みたいだと思った。

「――う、………」

唐突に痛みを感じて、ようやく自分の腕を見る。
そこにはぐるぐると包帯が負かれていて、点滴のチューブも繋がっていた。
包帯が巻かれているのはそこだけじゃないらしく、頭や胸や、身体のあちこちが痛んだ。

(ここは……)

月明かりもない中、辺りを見回す。
白い天井に、白い壁に、白いカーテン。
どうやら、個室の病室のようだ。

(…そうか、私は――)

そうだ、あの事件について調べていたのだ。
その途中で何者かに襲われ、そこからは記憶がない。
さしずめ大怪我を負って、ここに運び込まれたのだろう。

「クレ、ア……」

声が震えている。
もちろん返事はない。

「空、に、」

(空に落ちる、夢を見たんだ。)

空の向こうなんて、たとえ行けたとしても。
届くはずがないことは、知っていたのに。

「あぁ、あ、クレア、クレア、クレアクレアクレアクレア!!!!!!!」


















(夢の中でさえ、僕は、)

(君に触れることもできない。)












※※※

暗い話でごめんなさい。

イメージソングはG/U/M/Iのカ/ム/パ/ネ/ル/ラ。
あくまでイメージなので内容は違います。



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