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3.武器




民家に入ると赤崎は電気も付けずに懐中電灯を手に取り、まるで自分の家のようにズカズカと台所へ向かい、キッチンから適当なコップを取り出すと水道の蛇口を捻る。
しばらく水を流した後、そのコップに水を汲み、青山に差し出した。

「あ、ありがとう」
「それ飲んだら、さっさと進むからな」

素っ気なく言う赤崎は、自分のボストンバッグを抱えて玄関先で腰を下ろす。
様子を見る限りでは、今にでも出発したいようである。

そんな赤崎を待たせては申し訳ないと思う一方。
まだまだ頭の中にはいくつもの疑問が過る。


「聞きたい事があるなら、着いたら話してやる。それが終わったら とっとと出発するぞ」
「……わかった」

青山はコップの水を一口飲むと、ある事に気付いた。

一口……また一口。
喉が音を立てて、水が流れ込んでいく。

そういえばバスに乗る前から まだ何も口にしていない。
喉も乾くし、お腹も空くワケである。

「終わったか?」
「うん」

頷きながら、青山は使ったコップを台所に戻すと荷物を手に取る。
しかし赤崎は その荷物を引ったくると、足早に民家を出た。

今度は赤崎に繋がれる事なく、彼の後を追う青山。【走る】のではなく【早歩き】で目的地へ向かうところを見ると、その場所は近いらしい。

地図を見る間もなく……どこへ向かっているのだろうか。
民家の並ぶ場所を抜け、綺麗に作られた道路を抜け、歩きづらい山道へ進む。
暗がりで転んでしまわないように気を付けながら懐中電灯で足元を照らし、赤崎の後を追うと……その場所に到着した。

「しばらく此処に隠れる」

そこは、洞穴だった。
隣に立て札があるので、きっと観光用か何かの洞穴だろう。
草木に隠れた その場所は、一見だと見付けづらい所にあり、視界の悪い夜なので その場所を知らなければ まず見付からないだろう。

「……詳しいね」
「ここの島には一度 来たことがあるからな」
「え?」

それは初耳。
というか、赤崎の事について知るのは 今の情報自体が初めてなのだが。

「昔、友達と一緒に来た事があってな……この場所は偶然見付けた。元は観光用の洞窟だったみたいで、奥は鍾乳洞になってる」
「……へえ」
「気を付けろよ? 雨水とかで滑りやすくなってるから、転んだりして突き上げた鍾乳石に刺さったら死ぬぞ」
「…………」

赤崎の忠告をしっかりと耳にした青山は、そんな恐ろしい想像を頭の片隅に洞窟の奥へと進んで行く。

8月の残暑が微妙に残る9月中旬。
昼は暖かく、夜は涼しい。
秋に向けての丁度良い気候の季節である。
しかし普段でも日の当たらない洞窟の中は厭に涼しい……というよりは、少し寒ささえ感じる。

尖った鍾乳石に頭をぶつけないように身を低くし、しばらく奥へ進むと、鍾乳石の無い部分へ到着した。

(なるほど……)

あの鍾乳石を潜り抜けると更なる空間。
赤崎が此処を選んだ理由は、立派な隠れ家になるから……という事か。

「!」

やっとの事で到着した……というのに、赤崎は休む事なくボストンバッグの中を探り始めた。そして、そこからおもむろに取り出されたモノは……。



「ハズレは無いって聞いてたけどよ、まさか こんなのが用意されるとはな」
「……こんなの?」

青山は恐る恐る口を開いた。

「これは【デザートイーグル 50AE】っつって、自動式拳銃の中じゃ世界最高の威力を持つ弾薬も扱える銃だ。人間よりも狩猟向きの代物だな」
「何でそんな事知ってるの?」

「説明書に書いてある」
「…………」

赤崎の手元には、その説明書。
そういえば、そんな優しいモノも用意されてた。赤崎は懐中電灯を口にくわえ、説明書に目を通しながら着々と銃の弾薬を詰めていく。
その弾薬の大きさに青山は目を見開き、背筋に悪寒を走らせた。

赤崎は、その銃を狩猟向きと言った。
何を狩るのに向いてるモノかは不明だが、そんなモノを人間に撃ったら……一体 どうなってしまうのか。恐ろしくて堪らない。

「それで、撃つの? ……ひとを?」
「殺らなきゃ殺られんだろ」

そんな事を当たり前に答える赤崎に、青山は彼の神経を疑った。
あの死体を目の当たりにして、尚 そんな事を言うのか?

「……っ」

またも『あの光景』を思い出し、青山は胃が痙攣するのを感じた。
こんな洞窟の中で嘔吐したくなかったので、青山は急いで自分のボストンバッグを開け、中い入っている水を取りだそうと探る。

すると、何やらゴツゴツしたモノが青山の手を邪魔し、中の水を上手く取り出せない。懐中電灯を付けないまま探っているので、何が邪魔しているのか分からず。
そんな様子の青山に気付くと、赤崎は懐中電灯の明かりを青山の方へ向けた。

「……え?」

そのゴツゴツしたモノの正体を目にした途端、青山は一瞬にして凍り付く。
赤崎もボストンバッグの中から大きく覗く【ソレ】を見た瞬間に、目を大きく見開いた。

青山のボストンバッグを持った時、やけに重いと感じていた。
銃器か何かが入っているのだろうとは思っていたが、まさか こんなモノが入っていたとは……。


青山の支給されたボストンバッグの中に入っていたのは、【マシンガン】たるものだった。しかも、その中に入っていた弾薬の箱の数といったら、これは武器の中でも一番有利なモノだと見受けられる程の量だ。


が、しかし。
武器の中でも【当たり武器】であるマシンガンは、青山にとっては【最悪のハズレ武器】である事極まりなかった。

こんなモノを人に向かって撃つ事など……



(そしたら、みんなもあんなふうに……)




急激な目眩が青山を襲う。

「青山!?」


そして、次に彼女は視界を真っ暗に奪われ、そのまま意識の海へ飲み込まれていった。





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