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百鬼草紙
死人憑
「待ちやがれこの女郎!」


夜。誰も寝静まった街道を歩いていると、後方から小刀を持った男が物凄い形相で走ってくるかと思えば、丁度傍まで走ってきていた女に男は刃物を斬り付けた。
辰摩の目の前で起きる惨劇に辰摩はただ黙って見ていた。

無残に斬り殺された女は首が落ち、辺りの地面を血で赤く染めさながら血の池というものを作り出していた。
「やっと死んだかこの女」
そう言いながら女を斬り殺した男は女の首から外れてしまった頭を持つとやっと辰摩の存在に気付いたのか、辰摩の方に視線を移した。
「何だ? 武士でもない限り、人殺しはご法度だぞ」
辰摩の言葉に鼻で笑うと持っている頭を辰摩によく見えるように上げ、こう言った。
「こいつは人じゃないさ、死人憑にあった女だ」
それに武士でも無礼討ちじゃなければ刑だ。


「死人憑とはまた…」
「まあ、生前は俺の女房だったんだが… 先日流行病で死んでね。葬式行ったんだが、突然眼を見開いたかと思ったら死んだ筈の女房の死体が起き上った」
葬式に来ていた者は騒ぎ立て、坊主は腰を抜かしながらお経を唱えた。

その後、起き上った女房は男の顔をみて暴れだした。あまりの乱れ具合に。これは死人憑だと判明して女房を残し誰もがその家を後にした。無論家は女房が出れぬよう鍵やら何やら掛けて…
だが、女房は家を抜け出し男を追ってきた。
それを見た男はもう一度女房を殺そうと小刀を持ち出し、逆に女房を追いかけ今に至った。


「――!」
話をし終わった男は女房の頭を持ったまま踝を返した。
「何だ頭を持って帰るのか?」
「こんな事になっても俺の女だ。せめて頭だけでも連れて帰るさ」
「……そうか」





「そういえば」
互いにもう用はないとその場を立ち去ろうとしたところ辰摩は呟くように言った。
「死人憑っていう霊は無念で死んだ霊で何かしらその人間、あるいは身近な人間に関わっていた人間らしい」
「へぇ… そうかい」
辰摩の言葉に足を止めていた男は再び来た道を戻っていった。辰摩は一旦振り返り男を見たが関係ない事だと決め込みその場を後にした。










翌日、その男は死体となって発見された。
女の生首をもったまま、首には絞められた跡を残し。

近くには生首の体であろう胴体があり、首を斬られた体が恨み晴らすため男の首を絞めて殺したのだろうかと噂されたが真相は判らずじまいだ。
なんせ女は男が死ぬ前に死んでいたのだから、男の身内は「やはり死人憑だ」と畏れたらしいが、実際のところ。死体憑の霊が生前男に何らかしらされたのだろう。


「死んでもなお恨み続けるか…」

出会った時、視たものをまんま話してやれば良かったかと思うが

「他人の厄介事に首を突っ込む趣味はない」


それに、もはや過ぎた事。興味がないので考えるのもやめておく事にした。





※死人憑 人間の死体に別の何者かの霊が取り憑く怪異。

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