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百鬼草紙
雪女
一面。白。
昨日から降り続けた雪はあっという間に溶けることなく外を白一色に染め上げた。
しんしんと音の無い空間は静かで、どこか落ち着く。
「静かですね」
目の前の女はそう辰摩に尋ねたまま視線を閉められた襖の奥、白一色の景色を想像するかのように向けていた。
「あぁ…」
気のない返事。
別に普段と同じ。女に声をかけられ女の家へと招かれただけ。

「冬は好きです。全て雪に埋もれてしまうから」
女の独り言の様な話は続く。
「そうですか、私も好きですよ冬は。まぁ理由は貴女とは違いますが」
おやそうですかと、女は首を垂れ視線を再び襖に向ける。まるで外が恋しいかの様に。

「外に出ないのですか?」
「外は嫌いなのです」
先まで女特有の艶やかな笑みを浮かべていた女はじわりと涙を堪えるような表情に一変した。
「外に出てしまいますと私は消えてしまいます。今は大丈夫ですが、季節が過ぎれば…」





跡形もなく……



「それが嫌なのです」
「貴女の正体は雪女ですね」

「えぇ」
耐えていた涙が耐えきれず一粒一粒零れてゆく。

「春が来たら私は溶けて消えてしまいます。雪残る山奥ならば消えずに済みましょうが…」 ここは麓。無理です。


「私は貴女と違う理由で冬が好きです」
「さっきもそう、おっしゃてましたね」

「雪は溶け、水になります。その水は草木に恵みを与えます。だから冬は好きなのです」



「私が消えても忘れずにいてくれますか?」

「えぇ、冬はまだまだこれからです。その後より、これからの事を考えるべきだと思いますよ」

例えば、襖を開け雪見を楽しむなど。


「えぇ、宜しいかと」



襖を開ければ、そこは白一色だった。
空間を遮ったかの様にしんしんと静かに。それは絶える事無く降り続いていた。


「私にだって、季節を愛でる感情位は持ち合わせていますよ」
そう言って辰摩は茶を啜った。



隣に居た女はいない。






ただ、啜った茶が少しだけ冷めていた。





※雪女、雪の妖怪。冷たく残忍なイメージがありますが、こういった解釈も有かなと書いてみました。

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あきゅろす。
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