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百鬼草紙
文車妖妃

文っていうのは書いたその女の想いが籠っているもの

「先生は文を読んだ後どうしてます?」

突然雀啼にそう問われ辰摩は驚いた。
「…何だいきなり」
「いえ、この店に来る常連さんで女から文を貰って読んだそうなのですが…返事を出さずに他の女と寄りを持ってしまい。それを見た女が嫉妬に狂い男を殺したそうです」


「文を返す以前に、その女は男にとって好みの女ではなかったんだ、だから敢えて返事を出さなかったのだろう」

「あら、そういう風に言われると何だか腹が立ちますわね。女は好いた男にその気持ちを気付いてほしくて文を出すのに、好みでもなくても返事くらいはほしいですわ」


「……………」

「………」





「なら先生は今まで貰った文はどうしているのです?」
貰った事くらいおありでしょう?
雀啼の言葉に少し苛立ちを覚える。この目の前の遊女は何故こんなにも自分を陥れるような事をするのか…

「…雀啼、俺はお前になにかしたか?」

気付けば辰摩は思わず問いかけてしまっていた。

問いかけられた雀啼はというと、首を横に振り。
「そんな事はないですよ。ただ女の一人として貴方みたいな男が嫌いなのです」
多分私は貴方に文を出す事はないでしょう。

「そうか―――」

そう呟くと辰摩は飲むのをやめ、店をあとにした。











「―――!」

辰摩が屋敷に戻り自室を開ければ見知らぬ女が居た。
その女は長ったらしそうな文を読んでいた。
「誰だ。勝手に人の敷地に入り、不躾に人の文を読むのは」
そう辰摩に言われ女はゆっくりと振り返った。

「!!!」

その女の姿は角を生やし嫉妬に狂った形相、正に般若のような姿をしていた。
「文車妖妃か」
文の妖怪。
文を出したどこぞの女が愛憎ゆえ化けてやって来たのだろう。




「文を出したのに何故返事をくれないのです?」

やはり、文を出した女。

「文を読んで下さったのなら返事を書いて頂いても宜しいのでは?」

返事を返さない辰摩への文の催促。
だが…





「すまない。そこにある文を見れば判ると思うが… 俺は渡された文を読んだ事がない」
一切読まないんだ。

辰摩の言葉に文車妖妃の目が見開く。
そんな馬鹿なと言わんばかりに。

「あり得ない」文を読まないなど

「正直、怖くてね。その文を開ければ呪われるのではないかと思うのですよ」
小心者なんです──


「ひどい―――」


「そうですか?」

「えぇ、なら貴方は文も読まずに、何処で相手の気持ちに気付くのです!?」





「文を読まずとも、相手が思う気持ちに気付く方法はいくらでもある」

「…………」
そう辰摩に言われ、何も返せなくなった文車妖妃は消えていった。










一方。
辰摩が去り、一人ぼっちになった部屋で雀啼は辰摩が先程まで座っていた場所を見つめながら独り言のように呟いた。

「私は貴方に文なんて出しませんよ」

だって、最初から文を読まないと判っている相手に出したって無意味な行為だと判っているから。

でも―――

「私か鵲生ちゃんが文を出したらどんな反応をするんでしょうね?」

反応を見るのに出してみるのも一興か、そう自己完結し雀啼はその部屋を後にした。





※文車妖妃 想い籠りし手紙の怨念。

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あきゅろす。
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