ベルさんは、食堂のバルコニーにいた。
そろり、そろりと近づいていく。
私の気配に気づいたらしいベルさんは、ちらっと顔をこちらに向けて私を見るが、すぐに気まずそうに下を向いた。
「あの、」
「―――悪い」
幻聴かと思った。
あのチョモランマよりもプライドが高く、わがままで高慢な"ベルフェゴール"が謝るなんて。
「帰って欲しくねー、なんて言っちまって。
お前だって本当は帰りたいんだろ?」
「………はい。でも、まだ帰りたくない、とも思ってます」
「え?」
私もバルコニーに出て、ベルさんの隣に立つ。
ベルさんはゆっくり顔をこちらに向けて、話を聞く体勢をとってくれた。
「私、ベルさん達の事が大好きですよ。
まだ会って数時間しか経ってないけれど、みんな賑やかで、楽しくて…ずっといたいって思えますもん。
出会えたばかりで別れるのはやっぱり寂しいし、いつかは別れる時が来ると思います。
でも、今はまだ………きゃっ」
何が起こったのか、分からなかった。
気づけば目の前には紫と黒のボーダーと、熱くてかたい胸板。
背中には、温かいベルさんの腕が回されている。
「べべべベルさん…っ!?」
「ししっ、さくらがちょー可愛いんだもん」
先ほどまでのシリアスな空気はどこへやら、王子様はすっかり元気になり、私を離してくれない。
「ずっと…ここにいろよ。
王子がぜってー守ってやるからさ」
「ベルさん…」
「さくらは、王子の姫なんだぜ?」
―――わ、何、これ。
体全体が心臓になったようにドクンドクン言っている。
体が熱い。
どうしてベルさんが私を抱きしめてるの…?
この時は永遠じゃない
(朝、起きたら私はベルさんの部屋にいた)
(だってさくらあのまま寝ちゃったんだもん)
(不純異性交遊ですー堕王子、不潔ー)
(ゔお゙おい!!それは断じて許さんぞぉ!)
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