ベルフェゴールの腕から解放されたさくらは、一人の姿が見えないことに気づいた。
「…フランさんは?」
「ああ、あの子なら、私たちより先に日本に来てるはずよ。
取り返すものがあるって言っていたけれど、それが済んだらボンゴレと合流してるんじゃないかしら」
「何にせよ、ぐずぐずしている時間はない。
さくらと再び会うことができたのは喜ばしいことだが、危機が去ったわけではあるまい」
レヴィの言葉に、それぞれが頷く。
特にさくらは、綱吉たちといる方が安全だ。
さくらはザンザスたちと一緒に綱吉と合流することを最優先にし、怪我を負っているスクアーロは山本やビアンキたちと後から追うことになった。
しかし、訓練と実践を詰んだヴァリアーと、ただの高校生であるさくらとには埋めようもない体力の差があった。
早くも息を切らし始めたさくらに、いち早くベルフェゴールが気づく。
「…さくら?」
「っ、はぁ…はぁ」
「そうよねぇ、さくらちゃんは女の子だものね…アタシたちに着いてこいって言ったって無理な話よぉ。
けど、時間はあまりないのよ。おいで、おんぶしてアゲルわ」
「そんな、私重いですし…みなさんに迷惑はかけられないので、先に行って―――」
「バカなこと言ってんじゃねーよ。なんのために俺たちが日本に来たと思ってんの、バカさくら」
「なっ…ベルさん、そんなバカバカって…わっ」
ベルフェゴールに腕を引っ張られたかと思うと、さくらは横抱きにされていた。
急な浮遊感に思わず恐怖しベルフェゴールの首にしがみつく。
「うわっ、軽すぎ。白蘭のヤローちゃんとさくらに飯食わせてたのか?」
さくらが下ろして欲しいと懇願する間もなく、一行は再び走り出す。
とはいえ、地面を一方向に歩いていては万が一敵に見つかった場合狙い撃ちされるだけなので、木の枝を飛び移る。
ベルフェゴールに至っては、さくらを片腕で抱えた状態で移動するので、人間離れしたその動きにさくらはきつく目をつぶってベルフェゴールにしがみつくだけだった。
いつの間にか夜は明けていた。
突然、森の奥で爆発音が響く。戦闘の気配。
誰もなにも言わずとも、ボンゴレとミルフィオーレの最後の戦いが幕を開けたことを感じていた。
「…沢田綱吉はあそこか」
「!」
超直感で気配を感じ取ったのか、綱吉が振り向く。
ヴァリアーの姿を見た瞬間、その表情は驚きに満ちた。
「ザンザス!?と、ヴァリアーにさくらさん…?」
「てめーらの仲間に伝えろ。
―――ヴァリアーはボンゴレの旗の下、ボンゴレリングを所持する者を援護する」
「って…俺たちを助けに?」
驚きが消えない綱吉をよそに、ベルフェゴールはさくらを下ろす。
あの爆発の中には獄寺たちがいる。
助けにいかなくてはならないとわかっているからこそ、戦火の中に飛び込もうとしているヴァリアーを止めたい気持ちは押し殺すしかなかった。
「さくらのこと、もっかいお前らに預けんぜ。
しっかり守んねーとお前から殺すから」
「ひぃ!?」
「………っ」
ヴァリアーは、そのまま爆音の元へと姿を消した。
少しの間を置いて、様子を見ていたユニがゆっくり歩み寄ってくる。
「スクアーロさんは、無事だったのですね」
「…うん。でも、怪我がひどくて…私、少しの治療しかできなかった。
ねぇユニちゃん、私、こんなリングを持っていても何もできないよ」
「さくらさん…」
「私にしか使えない、世界を滅ぼせるリング。
今の私に世界が滅ぼせるとも救えるとも思えない…なんの力もないんだよ…」
半ば自棄になったように吐き出すさくらに、ユニは静かに瞳を閉じて小さく息をついた。
「さくらさん、綱吉さん。
今なら白蘭の邪魔も入りませんので全てをお話しすることができます」
クオーレリングの意味と、本当の力について。
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