正一は、身体は起こさないまま、目線だけを白蘭に向ける。
「大学時代に僕とチョイスをしたときのこと、覚えていますよね?
勝った僕に、支払うものがなくなったあなたが言った言葉…」
"次にチョイスで遊ぶときはハンデとして正チャンの好きな条件をのんであげるよ"
「その条件として、チョイスの報酬からさくらさんを外してください」
「え…!?」
「ボンゴレリングとクオーレリングは白蘭サンに差し上げます。だが、彼女をあなたの手に渡すわけにはいかない」
綱吉たち、ボンゴレの人間の顔色が驚きに変わった。
ボンゴレリングを渡す気でいる正一に怒りの色を示す者もいる。
さくら自身も、予測していなかった正一の言葉に呆然としていた。
「なにそれ、正チャン…ムシがよすぎるんじゃない?
悪いけど、そんな話覚えてないなぁ」
「嘘だ、チョイスには誠実だったあなたが勝負事を忘れるなんて!」
「だからそんな話なかったって。
ミルフィオーレのボスとして、正式にお断り」
まるで取りあおうとしない白蘭に、正一は唇を噛む。
そのとき、クオーレリングとリボーンの持つ黄色のおしゃぶりが明るく輝いた。
「え…っ!?なに、これ…」
「!」
さくらは初めて見るリングの輝きに慌てるが、背後にひとつの影が過ぎったのを見て唖然と口を開けた。
「…ユニ…」
人影の正体は、大人しそうな黒髪の少女だった。
ミルフィオーレファミリーの肩当てを身につけている。
「白蘭、ミルフィオーレのブラックスペルのボスである私にも、決定権の半分はあるはずです。
クオーレリングの適合者である彼女をチョイスの報酬から外してください」
「あの子がミルフィオーレのもう一人のボス!?」
「俺の知り合いの孫だ。やはりユニのことだったんだな、ブラックスペルのボスは」
ミルフィオーレのボスの一人が穏健そうな少女であることに驚く綱吉に、リボーンはしれっと答えた。
白蘭は張り付けた笑みを崩さないまま口を開く。
「すっかり顔色も良くなっちゃって、元気を取り戻したみたいだね、ユニちゃん」
「え…?」
「……病気でもしていたのか?」
過去から来ていた10年前の了平の疑問に正一が虚ろな瞳を宙に向けて答える。
「いいや…白蘭サンに無理矢理劇薬を投与され、魂を壊されていたんだ……。
…ブラックスペルの指揮権を手に入れるためにね」
「そんな…」
「でもその間、私の魂はずっと遠くへ避難していたので無事でした。
白蘭…私も、あなたと同じように他の世界へ翔べるようです」
ユニの言葉を聞いた白蘭の顔色が変わる。
他の面々も疑問符を浮かべる中、ユニは淡々と話を続けた。
「話を戻します…私はさくらさんをチョイスの報酬から外すことに賛成です。
白蘭と入江さんとの約束は本当にあったからです」
「…元気になってくれたのは嬉しいんだけど、僕の決断に、ミルフィオーレのナンバー2である君が口出しをする権利はないな」
「………」
「さくらちゃんは僕のモノだよ」
聞く耳を持たない白蘭にユニは静かに目を閉じ、背中を向けた。
「……わかりました。では、私はミルフィオーレファミリーを脱会します」
そのままユニは、呆気に取られている綱吉の元に歩み寄る。
「沢田綱吉さん、お願いがあります」
「お…お願い…!?」
「―――私を守ってください」
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