白蘭が部屋を出ていくと、さくらは洗面所に備え付けてあるクローゼットを開ける。
そこには白蘭が用意した服が数着かけてあり、さくらがここに連れて来られた時に着ていた淡いピンクのワンピースは綺麗に畳まれた状態で置いてあった。
手早く着替えと朝食を済ませると、白蘭に言われた通りに部屋の外に出るため扉に手をかける。
普段は鍵がかけてあって開かなかった扉が、今日はすんなり開いた。
「さくらチャン」
「…白蘭」
部屋の外ではいつもの白い服に身を包んだ白蘭が待っていて、さくらが出てきたのに気づくと口元に薄い笑みを浮かべエレベーターに誘導する。
エレベーターが降りていく中で、さくらは怖ず怖ずと疑問を口にした。
「ねぇ、私に会わせたい人って…?」
「チョイスでの、ボンゴレの相手になる子たち、かな」
「!!」
白蘭の返答に、さくらは目を見開くと体を硬直させた。
チョイスにおいてボンゴレの対戦相手となる者、それはすなわち。
「着いたよ」
誘導された黒い大きな扉の前で足を止める。
その脇にある白いパネルに白蘭が手を翳すと、機械音とともに扉が開いた。
さくらは白蘭のあとに続いて部屋の中に足を踏み入れる。
それと同時に、子供の高い声が聞こえた。
「ザクロのバカー!すっとこどっこい!」
「バーロー、すっとこどっこいはてめーの方だろうが」
中には大きな水槽のある部屋が広がっていて、複数の人影が集まっていた。
白蘭に促されるまま近づいていくと、人影の中の一人がさくらと白蘭の存在に気づく。
「…白蘭様。まだ当日まで余裕があるというのに、おいでになるとは思いませんでした」
「前に言っていた、全属性のリングの適合者って子を連れてきたんだよ」
「…それは、そこの彼女のことですか?」
「うん」
そう言って白蘭は、背中を押してさくらを前へ導く。
目の前の男は、優しげな口調と雰囲気の中にキンと張り詰めたような空気を纏っていた。
さくらはその彼の名前を知っている。
「私は桔梗と申します。さくら、あなたのことは白蘭様から聞き及んでいますよ」
そう言って桔梗は口元に柔らかな笑みを浮かべ、奥の二人を指す。
幼い印象を受ける少女と、赤髪の男性。
「あそこにいる彼女はブルーベル、あちらの彼の名はザクロです。
ここにいる者で全員ではありませんが…我らは真六弔花、どうぞお見知り置きを。
あなたと同じく、我々も白蘭様と未来を共にする存在なのですからね」
「…私はあなたたちや白蘭の仲間じゃない」
桔梗の言葉に対してさくらはぴしゃりと言った。
柔らかな物腰に惑わされてしまいそうになるが、彼らもまた、さくらやヴァリアーが属するボンゴレにとって敵対する相手なのだ。
ときに友好的な態度は相手をつけあがらせる。
いつだったか、スクアーロがそんなことを言っていた。
「私は、きっとみんなのところに帰ります。大好きな、ヴァリアーのみんなのところへ」
それは、さくらが不安を打ち消すため、自分自身に言い聞かせた言葉だったのかもしれない。
戦いの調べ
←→
[戻る]