Target-39:掴めない意図


ミルフィオーレに捕まって5日。
さくらが目を覚ますと、いつもは隣でさくらが起きるまで傍らにいる白蘭の姿が見えないことに気づいた。

寝ぼけ眼を擦りながら部屋に隣接した洗面所に向かう。


「…………」


白蘭の用意した寝間着の胸元から覗く、傷ひとつない白い肌。
以前、ベルフェゴールがつけた赤い痕はすっかり消えていた。
数日前までその印があった場所にそっと触れる。


「……ベル、さん」


このミルフィオーレの本部に来てから5日の間、一度もこの部屋から出してもらえていない。
最低限のもの以外何もないこの部屋で、いつも考えるのはヴァリアーの皆のことだった。


「フランさんも、スクアーロさんも…みんな、大丈夫かな」


あと5日で、チョイスが始まる。
さくらはチョイスの結果も、その後の展開も知っていた。

指にはめられた白いリングに目を落とす。
世界を滅ぼすことができるというこの小さな塊。
その力を持ってすれば、ここから逃げ出すこともできるのだろうが、さくらは力の使い方を何一つ知らない。

7з<トゥリニセッテ>と同等のエネルギーを持つと言われても、さくらには理解の及ばない話だった。


「あれ?起きてたんだ、さくらチャン」


唐突に背後に人の気配を感じて振り返ると、白蘭が洗面所を覗き込んでいた。


「おはよ。テーブルに朝ごはんを用意してあるよ」

「……うん、ありがと」


さくらが了承の返事を返すと、白蘭は少し驚いたように目を見開いた。


「初めてだね、さくらチャンが普通の返事してくれたの。
いつも親の仇でもみるような顔で素っ気ない返事しか返してくれないんだもん」


さくらは薄々気づいていた。
白蘭のさくらへの扱いが、人質に対するそれではないということを。

漫画で白蘭を初めて見たとき、白蘭の笑顔には裏を感じさせる何かが確かにあったはずなのだ。
しかしこうして対面して会話をしていると、含みのない笑顔が自分に向けられていることに戸惑う。
だから、心の内で燻っていた疑問が思わず口をついて出た。


「白蘭は…どうして私とリングをチョイスの報酬にしたの?」


さくらとクオーレリングはすでに白蘭の元にあり、それだけで世界を自由にできる力を持っているはずだ。
なのに、チョイスの報酬としてまでボンゴレとミルフィオーレの中間点に置こうとする理由がわからなかった。


「7з<トゥリニセッテ>とクオーレリングが揃わないと意味がない。…それだけだよ」

「え…?」

「さくらチャンに会わせたい子たちがいるから、支度できたら部屋の外に出ておいで」


一瞬、白蘭の声のトーンが変わった気がした。
しかしすぐにいつもの調子に戻り、ニッと笑みを深めると洗面所を後にする。

白蘭は不思議だ、とさくらは思った。
彼はこの世界以外、すべてのパラレルワールドを滅ぼし尽くした。
どれだけたくさんの人を犠牲にしたかわからない。

けれど、ほだされてしまったかのように彼を憎むに憎めない自分がいる。
白蘭が最初に言った通り、さくらは至極丁寧に扱われた。
白蘭はさくらをよく気遣っていたし、部屋から出られないこと以外の不自由は何一つなかったのだ。


「…変なの」


さくらは呟くと、洗面所の蛍光灯に白い石を透かした。


―――チョイスまであと5日








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あきゅろす。
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