side:Squalo
目の前の女は、俯いたままだった。
―――この世界の人間じゃねぇだと…?
ふざけた事を抜かしやがる…。
しかし、本当にこの女が一般人だとしたら、セキュリティーが厳重なこの屋敷の庭に侵入するのは到底不可能だ。
それにこの女、なぜか木の上から…
「女ぁ!!」
「!」
俺が叫ぶと、女は弾かれたように顔を上げた。
そこで俺は初めて、女の顔をしっかり見た。
「…………っ」
瞳は恐怖に打ち震え、大きく開かれているがしっかりとした意志を持っている。
血の気を失ったように青ざめた白い肌には、それでもほんのりと赤みが差していた。
艶やかな黒髪…顔立ちからしてジャッポネーゼか?
いずれにしろ東洋人であることは間違いなさそうだ。
「俺たちのボスの所に連れて行ってやる…お前をどうするかはそこで決める。
俺の名前はスペルビ・スクアーロだ。お前、名はなんだ?」
「…っ、葉月さくらです」
「良い名前だぁ」
俺がそう言うと、女…さくらの強張っていた肩が緩んだ。
その細腕を掴んで立ち上がらせ、ついてくるように言う。
―――果たして、あのボスさんがこいつを見たら何と言うだろうなぁ…。
「なんだ、この女は」
やはり俺達のボス、ザンザスは幼い目の前の女を一瞥すると不機嫌そうにさくらを睨みつけた。
「こいつが言うには異世界とやらから飛ばされてきたらしいぜぇ…。
にわかには信じがたいがなぁ」
「で、このカスをどうするつもりだ、カス鮫」
「そいつはボスさんの判断に任せる。
ただ、俺は異世界から来たと言うこいつの言葉をハナっから否定するつもりはねぇ。
それに、こいつはまだガキだ。身元がわかるまではここに置いてやれねぇかぁ」
俺の言葉に驚いたのは、ザンザスだけではなかった。
さくらも目を見開いている。
「あの…スクアーロさん、私っ…」
「お前が本当に異世界から来たのだとしたら、他に行く場所なんてねぇはずだぁ。
それとも、このまま外でのたれ死ぬかぁ?」
「でも…っ」
その時、ザンザスが口を開いた。
「…好きにしろ」
さくらはまた、驚いた顔をした。
大切なのは第一印象
←→
[戻る]